見知らぬ男に裸の尻を叩かれていた少女の記憶

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小学生の一時期、父親が下手をやって団地というヤツに暮らした。
5階建てでエレベーターなし。
各フロアに1本の廊下がある造りではなく、階段ごとが独立していて、つまり1つの階段1フロアごとに対面2世帯で計10世帯。
1棟に階段が3系統あったとすると全世帯は30世帯、そんな具合になっていた。
うちは4階で、最上階の5階は空室だったと記憶してるが定かではない。

たぶん俺は5年生だったから妹は1年。
唯一の隣人だった世帯の娘は俺より1つ上の6年だったと思うが、これも今となっては確かな根拠がない。

隣の娘は地味ながらなかなかの美少女で、妹と仲がよかったからうちに頻繁に来ていた。
妹が無断で俺のゲーム機を娘に貸して遊ぶことが多いのだが、彼女はいつも決まってスカート姿で妹とタンスにもたれてゲームをしているので、妹の部屋から続いた奥が自室だった俺は自然な流れで彼女のパンツを拝むことができた。

俺の両親は団地当時のことを語るのを極度に忌み嫌う。
妹も、その娘について恐ろしいほど記憶が薄く、時折彼女の存在自体が全て俺の妄想なのかなとさえ思えることがある。

ある時、俺が学校から帰って来るとドアの鍵が開いていた。

(妹め、また鍵を閉めるのを忘れやがって)

苦々しくそう思っていると、上階から足踏みを繰り返すのに似た音と、手すりが軋む音が聞こえてきた。
5階がどちらも空室だと信じている俺とっては不気味な状況。
子供なりに危険を感じて鍵穴に差し込んだキーを施錠側に戻した俺は、そっと抜いたキーを握り締めて足音を殺して階段を上がった。
階段は、外向きに上がって踊り場、折り返して上がって玄関という造りになっていて、俺は踊り場の手前から手すり越しに上をチラッと窺い見た。

足踏み音をさせているのは隣家の娘で、赤いランドセルを背負ったまま前屈みになって俺に背を向けていた。
娘の腹部を大きく左から丸抱えする形で見知らぬ若い男がいて、娘はスカートを捲り上げられ、尻だけが出るように下着は下ろされて、剥き出しの尻を叩かれていたように俺には見えた。
男の顔は少女の尻のすぐ上にあり、ロックされていないランドセルの扉で顔を繰り返し叩かれているように見えた。
男の足は少女より数段下にあって、手すりが軋むのは男がもたれかかっているせいだった。

見知らぬ男だという事実と、彼女がランドセルのショルダーに取り付けられている防犯ブザーを押せる状況かどうかとの判断が俺に求められた。
娘の手は、片方は5階宅のドアの外縁で固定、もう片方は当然体を支えてはいるのだが、階段のコンクリ壁面で割とフリーであると思えた。

だが、そんなことよりも男の尻叩きが異常だった。
今であれば「立ちバックの手マン」なんてゲスな理解と表現が容易いが、当時の俺には理解ができなかった。
ただ、見てはいけないものを見てしまっているという思いは強かった。

そこへ俺の妹がドアを開けて顔を出した。
慌てて俺は妹を押し込み、わざと大きな音がするようにドアを勢いよく閉めた。

「変なヤツが上の階にいるから奥に行ってろ」

ドアにロックをして聞き耳を立てるが何も聞こえない。
不必要にドアノブを握り、引っ張っている手のひらに汗が滲んだ。
やがて覗き穴の視界が遮られ、同時に階段を駆け下りる音が聞こえたので、場所をトイレに移して窓から男の姿を探した。
背中をよじ登ろうとする妹がウザかった。
男がかなり慌てた様子で自転車に乗って去って行くのが見え、ドアを使って大きな音を出した作戦が功を奏したことに少し俺はほくそ笑んだ。

男が去ったことで事が無事済んだと思っている妹を遠ざけながら、俺にはまだ思い残したことがある。
隣家の娘の動向である。
本能的というべきか、妹に見せてはいけないとの思いが俺にはあった。
とりあえず覗き穴だと思って下足場の自分の靴に足を置いた瞬間にピンポンが鳴った。
ビクッとして鳥肌が立った。
覗き穴に隣家の娘が映った。

(!!!)

男が去ったからには居留守を使って拒む理由もないし、たとえそうしようとしても妹がいるので無理だろうと俺は判断した。

「ゆうな(『ゆな』だったかもしれない)ちゃん来たよ。開けていいの?」

そんな顔で妹が俺を見ていた。
いつもと変わらない日常がまた戻った。
思春期を迎えて、この記憶はやがて俺の中でズリネタに変わった。
また時が経つと、今度は全てが俺の妄想であってくれたらいいのにと願った。

団地を出たのはうちが先だった。
見栄っ張りのうちの父が言い出して、隣家の人たちとお別れ会食みたいのを催した記憶はあるのだが、先方のメンツが娘以外はさっぱり浮かばない。
妹も首を傾げるばかりで、それでも「お兄ちゃんの淡い初恋話だね」と笑って全否定はしない。

何年か後、祖母の古い友人だったという人が来て、仏壇に線香をあげてくれた。
その婆さんがあの団地住まいだと聞いて、俺が送ることになった。
2人きりはさすがに気分が乗らなかったので妹を同乗させ、婆さんを降ろしてから昔の住まいをちょっと見に行った。
空いている駐車場に車を停め、道端から見上げるだけ。
4階5階の4室全てが空家のようだった。
畳の日焼けを防ぐためなのだろう、窓に明らかにカーテンではないと判る紙のようなものが貼ってあった。
一切の感傷を示さない妹は、子供用自転車の親が持つための支え棒について語っていた。
俺は娘とあの男との間柄に思いを馳せていた。

(もう独立している年の離れた腹違いの兄?)

発想が貧しくて泣き笑いみたくなった。

(初恋か・・・初恋なんだろうな。ぶち壊しの悲惨エンドだが・・・)

車に帰ると、今思い出したといった感じで、妹が露出男に遭遇した話をはじめ、「ゆうなちゃんが一緒の時でよかった」と目を丸めた。

「・・・だってゆうなちゃん、全然平気みたいなんだよ、目が悪かったのかな?」

俺の妄想に新たな設定条件が加えられた。
まあとにかく、妹の体験は根の浅いものでよかった。

「そいつ、デカかった?」

「見てるかいっ!」

エンジンをかけるのと同時に夕刊配達のおばさんの自転車が車の進路を塞いだ。
手を上げて申し訳なさそうな顔をするおばさんは、それでも配達を優先させて集合ポストに向かう。

その日以来、あの団地へは行っていない。