まさか妹がドSだったなんて・第1話

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バイトも休みでゆっくりしていた朝。

「あ~幸せ~~」

布団の中でまどろむ俺はふと何かに気が付いた。

「ん?」

何か独特の臭いと共に身体が圧迫される感じ。

(この臭いは・・・酒か?)

壁際に置いてるベッドの上で壁際を向いて寝ていた俺は後ろを振り返ろうとして驚いた。

「お、お前っ・・・!!」

4歳下の妹、真由だ。
普段は臭いだの汚らしいだの邪魔だのって散々言いたいことを言ってる女が、なぜか人のベッドを占領して堂々と寝ている。
どうりで圧迫感があるはずだ。
ど真ん中に妹が寝ていたせいで、俺は身動き取れなかったのだ。

「お前なぁ・・・」

文句を言おうと思ったが、妹はくーくーと寝息を立てて眠っている。

(・・・まぁいいか。起きるまでほっとこ)

妹を踏まないように注意してベッドの上で足場を探す。
気を付けていたつもりなのに、うっかり腕を踏みそうになる。

(なんで自分のベッドでこんな苦労しないといけないんだよ・・・)

心の中でツッコミを入れながらも、なるべく起こさないように気を遣う自分が悲しい。
トイレに行って1階のリビングに下りる。
両親は共稼ぎでこの家と車のローンを払うために嬉々として働いている。
特に母親の方は看護師で稼ぎがいいため、この家の家計を左右する大切な存在だ。
冷蔵庫に貼り付けてあるホワイトボードに書き置きがあった。
汚い字で書きなぐってある。

『冷蔵庫の中の物、勝手に食べて』

ということは自分で作れってことか・・・。
朝からそんな面倒くさいことはしたくない。
朝と言っても、もう10時過ぎてるが。
食パンにハムとチーズを乗っけてオーブントースターで焼き、牛乳を入れる。
コーヒーが欲しいところだが、自分で入れるの億劫だ。
パンと牛乳を黙々と食べ、食器を流しに置いてから2階の自室に戻った。

ガチャ。

(そっか。こいつがいたんだ。・・・何も出来ないじゃん、俺)

妹が寝ているので、カーテンを開けることもテレビを点けることも出来ない。
大体、高校生のくせに酒を飲んで帰って来ること自体間違っているのだ。

(親の躾が悪いからこうなるんだな)

同じ親に躾けられてることを棚に上げてポツリと呟く。

「んんん・・・んーー」

眉間にシワを寄せた顔で妹が寝返りを打った。

(もうちょっとほっとくかな)

俺は仕方なく下へおりてテレビのリモコンを手に取った。

「まさにぃー」

揺すられて、はっと目が覚めた。
どうやらリビングのソファーでうたた寝していたらしい。
時計を見ると12時を過ぎていた。

「なんでこんなところで寝てるの?ご飯は?」

さっき起きてきたらしい妹の頭はボサボサで、目には目ヤニが付いている。

「こんなとこって・・・お前のせいだろ。人の布団に侵入してきやがって」

「あ~そっか。酔っ払って部屋を間違ったのかな」

それだけ言うとクルリときびすを返して洗面所に行ってしまった。

「ちょっとくらい謝れよな~」

妹にすら文句が言えない自分を見て、またも切なくなってしまう。
自分で言うのもなんだが、俺は大人しい。
文句を言ったりケンカをしたりなんてほとんど、いや、全くと言っていいほどないのだ。
良く言えばおっとりしてる、気が長い、というヤツだが、悪く言うと優柔不断、ヘタレ、自己主張できない、となってしまう。
大学に在学中もそうだった。
印象が薄く、あまり友人も多くなかった。
4年生になってボヤボヤしてるうちに卒業になってしまい、結局就職出来なかったのもこの性格のせいかもしれない。

妹はと言うと、明るく活発で成績もいい。
友達も多く、彼氏もいる。
同じ兄妹でどうしてこんなに性格が違うのか、不思議でしょうがない。

「まさー、ご飯どうすんのー?」

「ああ?俺はさっき食パン食った」

俺の名前は『雅裕(まさひろ)』だ。
妹に呼び捨てにされているが、これでも案外仲はいい。
世の中には名前を呼ぶどころか「お前」と言われたり、完璧に無視されたりする兄妹がいくらでもいると友達から聞いたのだ。
子供の頃から親が共稼ぎで鍵っ子だったせいか、俺が家で静かに遊ぶタイプだったせいか、小さい頃、妹はずっと俺の側にいた。

「おにぃちゃぁーん」と可愛らしく呼ばれて可愛がっていたが、中学校に入った頃からその愛らしさは消えてしまったらしい。

「あ~、昨日は飲んじゃったわ~」

シャワーに入ってやっとスッキリしたらしい。
妹は薄いガウンのような部屋着を着て台所に戻ってきた。

「なんでそんなに飲むんだよ。だいいちお前、まだ高校生だぞ」

「っさいなぁ。今日びの高校生は酒くらい飲めないとダメなの。退屈なコンパだったから、つい飲みすぎちゃったのよ!」

「コンパって・・・お前、彼氏いるだろ?」

「もう別れた」

「はぁ!3ヶ月も経ってないのに?さては振られたな、お前。そんなに可愛げがなかったら、そりゃ振られるわな」

その瞬間、ハッとしたような顔になった妹がカウンターキッチンの向こうからこっちをじっと見ていた。

「なんだよ。ホントのことじゃねーか」

こちらを凝視していた妹は冷蔵庫の方に向かって歩きながら、「振られたんじゃない。振ったの」とポツリと言い、冷蔵庫を開けてオレンジジュースをグラスに注いだ。

「なんで振ったんだよ。結構いい男だったじゃん」

「つまんなかったから。あたしの好きなタイプじゃないんだもん」

ジュースをテーブルの上に置き、俺の座っているソファーの隣にドンと腰を掛けてきた。

「ホコリが立つだろ!もっと静かに座れよ。だから女らしくないって言われるんだぞ」

「・・・女らしくない、か・・・。ねぇ、まさにぃはどんな女の人が好き?」

「あー?俺はほら、あれだよ。松嶋菜々子みたいなキレイで大人しい感じがタイプだよ」

「へえー絶対無理だね。高嶺の花じゃん」

「うるせー、この酔っ払い」

妹の頭をパシンと突っ込んで、「いったぁ~~~い。まさひろのばーか!」と言って頭を押さえる妹の胸元をふと見てしまった。
ガウンなので前開きになっていて、ブラをしていない妹の胸の谷間がよく見える。

(結構でかいな、こいつ)

いつの間にか女の身体になっていた妹を見て、しみじみと感慨に耽る。

(ちょっと前までガキだったのに・・・)

もちろんそこには何の感情もない。
兄として妹を見ているだけだった。

「あー、まさひろのエロー。人のおっぱい見て妄想してるー」

なぜか嬉しそうにはやしたてる妹が、「ね、あたしってどう?これでも結構モテるんだけど」と言って立ち上がり、クネクネと悩殺ポーズを取って見せた。

「そりゃよござんしたね。でかいケツは上手く隠しとけよ」

「バカッ!!ケツの話はいいの!!」

言うが早いかソファーの上のクッションが飛んできた。
妹は結構お尻が大きくて、それをかなり気にしている。

「お尻が大きいのが好きっていう人多いから、いいんだもん!!」

「あそ。俺は小さいのが好き」

ベッドを占領されたお返しとばかり逆らってやった。

「ばーーーか!!!」

舌を出してイーッとした妹は、ツン!と顔を上げてまた冷蔵庫の方に戻っていった。
冷蔵庫をバタンと乱暴に開けた妹が、「何にもない~。まさひろ、何か作ってぇ」とさっきまで不貞腐れていたのがウソのような鼻にかかった甘い声だった。

「自分で作れ。甘えんなよ」

そう言いつつもソファーを立ち、冷蔵庫の方に向かう俺。
共稼ぎの親のせいで、料理はしょっちゅうやっている。
反対に妹はろくに包丁も持てない有様だ。

「まさひろ様~。美味しいもん作ってぇ」

「さっきクッション投げただろ。結構痛かったぞ、あれ」

「さっき謝ったじゃん。ごめんってば」

「謝ってねーよ。人のベッドに入ってくるしよ」

そうやって文句を言いながら手が勝手に卵やウインナーを取っている。

「パンでいいだろ。簡単なもんしか作らねーぞ。つかお前、隣で見とけ。このままじゃ嫁にも行けねーだろ」

「ええ~今日はしんどい~。明日からちゃんと手伝うから、ねっ?」

「ね?じゃねーよ。ほらどけよ。フライパンが取れねーだろうが」

「わーい。まさひろ様、大好き~」

そう言ったかと思うと、フライパンを取ろうとして前屈みになっている俺の背中に乗ってきた。

「うお!危ねーじゃねーか!つか重てーぞ、てめー!」

危うくバランスを崩して倒れ込むところだった。
背中に貼り付いたままの妹は、「可愛い妹に慕われて嬉しいでしょ~」と勝手なことをほざいてる。

「早くどかねーと飯作らねーぞ」

「またまた~。妹と触れ合えて嬉しいくせに~」

確かに嬉しくないと言ったらウソになる。
無視されたり、「てめー臭ぇーんだよ!!」と言う妹よりは遥かにマシだなと、頭の隅でちらりと考える。
が、どこの世界に妹に抱きつかれて手放しで喜ぶ兄がいるというんだ。

「ほら下りろ。くっつきたかったら隣で料理するとこ見とけ」

「・・・いい。邪魔になるだけだもん。後でゆっくり感謝してあげる」

そう言って俺の背中から下りたかと思うと、すたすたとリビングに戻ってしまった。

(誰だ?あんな風に躾けたのは)

さっきと同じ突っ込みを心の中でして、手早く料理に取りかかった。
料理と言っても簡単なものだった。
スクランブルエッグとウインナーのボイル。
サラダとフルーツ。
さっきは面倒臭かったコーヒーも入れてみた。
食べ終わった妹に、「感謝してるなら洗い物くらいしろよ」と言って立ち上がると、「えぇ~~~サービス悪いよ、まさひろー!」という声が背中越しに聞こえたが、無視してコーヒーのカップを持って部屋に戻った。

「せっかくの休みなのにすることがねーな」

独り言を言いながらコーヒーをすする。
いつもはバイトバイトで忙しいので、こんな日もたまにはいい。
パソコンの電源を入れながらぼんやり外を見ていると、「ねーちょっとぉー」と言いながら、またも妹が乱入してきた。

「あたしのパソコン、動かないよー」

「・・・お前な、人のリラックスタイムを・・・」

「いいから早く!!なんとかしてくれないとメール読めないじゃん!」

手を引っ張られ、久しぶりに妹の部屋に入る。
いつも隣にいるとはいえ、この個室の中では何をしているのか全く分からない。
妹だというのに知らない人の匂いがするようで、ちょっとドキドキしてしまう。
パソコンを見ると、動かない以前の問題だった。
起動してもいないのだ。

「お前、電源入れたのか?」

机の下を見ると、スイッチ付きのコンセントが転がっている。

「あ、忘れてた」

「てへっ」と言って自分でスイッチを入れ、起動ボタンを押す。

「はぁーーー。じゃもういいだろ。しばらく静かにしてくれよ」

俺がそう言って自分の部屋に戻ろうと身体の向きを変えた途端、「ダメ!!!ちゃんと動き出すまでここで見てて!」とビックリするような声で言われ、立ちすくんでしまった。

「そこに座ってていいから!」

パソコンをじっと見つめながら勝手なことを言う妹。
言われた通りに、「そこ」であろう妹のベッドに腰をかけた。

「お前な、いい加減パソコンの扱いを覚えてくれよ。しょっちゅう同じこと聞いてるぞ」

そう言いながら、久しぶりに入った妹の部屋を見回してキョロキョロしてしまう。
気が付くと、パソコンを見てた妹がじっとこっちを見つめている。

「何だ?パソコン動かないのか?」

「あのさ、まさにぃ」

「あ?起動しないのか?」

「違うって」

「何だ?何かやらかしたのか?」

「・・・違うって。あのさ」

「うん?」

「なんでまさにぃは彼女を作らないの?」

俺にとっては下らない質問だったが、妹は結構真剣な顔をしている。

「欲しいっつってもすぐに出来るもんじゃねーだろ。レンジで3分ってわけにゃいかねーんだからよ。第一バイトと就職活動で忙しくてそんな暇ねーよ」

「欲しくないの?彼女」

「欲しくないなんて言ってないだろ。いた方がいいに決まってるよ」

「まさにぃってさ、エッチしたことある?」

「はあ!?」

「したことあるの?って、聞・い・て・る・の!」

机から俺の側に寄ってきた妹が、立ったまま俺の鼻先で高飛車に聞いてきた。

「正直に言っちゃいなさい。先生、怒らないから」

見下ろされながら、動揺を隠せない俺が目を逸らそうとすると、両手で俺のほっぺたを軽く摘みながら・・・。

「どーして目を逸らすのかな~?先、生ウソつく子は嫌いだなー」

「ふぇんふぇいってあんあよ?(先生って誰だよ?)」

「何言ってるのか分かりませんね~。まさひろ君、ちゃんとお返事しましょうね~」

両方の頬を摘まれてるのだから上手くしゃべれるわけがない。
ほっぺたを摘んだ妹の手首をぐっと握り締めて、思い切り外側に引っ張った。

「誰が先生だ!ほっぺた痛ぇーだろ!お前な、ちょっとにーちゃんに優しくしろよ!俺はバイトで疲れてるんだよ!」

「いつも優しくしてるじゃん。今も優しいでしょ?」

両手首を握られたまま、なんと妹は俺の膝の上に座ってきた。
いわゆる対面座位というやつか!?

「おっおい・・・どこ座ってるんだよ・・・」

あまりの展開に驚いて妹の手首を離してしまう。
そのまま両手は後ろについた。
そうしないと後ろに倒れてしまいそうだったからだ。
俺の首に両手を回した妹がニヤリとした表情をしながら・・・。

「で?まさにぃって童貞なの?」

なおもしつこく聞いてくる。

「お前にかんけーねーだろ!」

返事をしながら思い切り顔を背けてしまった。
つくづく俺は詐欺師には向いていない。
妹はさっきより一層ニヤニヤし出している。
まずい・・・兄としての立場が悪くなる。

「そこどけよ。重てーんだよ。俺は部屋に帰る・・・!」

首に回した手を肩に置いたと思ったら、ぐっと力を入れられた。

ドサッ!

気が付くと妹に押し倒されていたのだ。

「ななな、なんだよ!何してるんだよ!」

「まさにぃに感謝の印~(ハァト)」

倒れ込んだ俺の胸に妹が寄り添ってくる。
天井を見上げたまま何も出来ない俺はもはや呆然とするしかなかった。
徐々に妹の髪の匂いや胸の感触、体温が直に伝わってきた。

どれくらい呆然としていたのだろう。
10分か、10秒か。
それとももっと長いのか短いのか。
色んなことが頭の中をグルグル回って、どうにもこうにも動けない。
妹は俺の胸でじっとしている。

一体何がしたいんだ・・・?
童貞だからってバカにしてるのか?

俺は本当に童貞だ。
いや、過去に何人かの彼女はいたのだ。
しかし、いつもこの性格が災いして、どうしても最後の一線を越えることが出来なかったのだ。

「まさ君のそういうところが好き」

そう言って付き合った女でさえ、俺の情けない性格に嫌気が差したのかすぐに離れていってしまった。
セックスの手前までは行ったのだが、立たなかったのだ。
過去に戻れるとしたら、絶対に戻ってなんとかしたい思い出だ。

(妹相手に何やってるんだ、俺は!)

はっと我に返り、妹の腰に手を当てて軽く揺する。

「おい、まゆ。まさか寝てるんじゃないだろうな、おい」

びくっと妹の腰が揺れたような気がした。
その瞬間、がばっと顔を上げた妹が・・・。

「あたし、まさにぃのこと好きだよ」

「・・・はあ?!」

さっきから驚きの連続で、もはや頭は回らず言葉も出ない。

「おにぃちゃんもあたしのことが大事だよね?」

「・・・はあ?」

「ね?」

いたずらっぽく首を傾げながら、今度は片方のほっぺただけをきゅっと摘んでくる。

「・・・はあ。・・・お、俺、部屋に帰る。もうパソコン動いてるだろ」

慌てて妹を振りほどくように払いのけ、立ち上がる。
なぜ、こんなに動揺しなくてはいけないのか。
自分でも分からなかった。

「ありがと、まさにぃ。またヨロシクね」

ニコっと笑った妹に返事もせず、俺はあたふたと部屋を出た。
部屋に戻ってドアを閉める。
今さらながら心臓がドキドキして、胸の奥がキューっとなる。

(なんだったんだ、あれは?)

点けっぱなしのパソコンデスクに向かおうとして足を進める。
ふっと妹の残り香が鼻についた。
シャンプーのせいだろうか。
甘くて優しい匂い。
胸の感触も残っている。
そういえば結構大きかったもんな。
腰に手をかけた時の柔らかく温かいぬくもりも手のひらに残っている。

(変態みたいじゃん、俺)

ドキドキする心臓を静めるために、1人っきりなのに無理に冷静を装った。

「これだから女はたちが悪ぃーんだよ」

ボソリと1人で文句を言ってパソコンに向かう。
そういえば開けっ放しでメールのチェックもしていなかった。
新着メールをクリックすると、DMやネットの友人からのメールがいくつか来ていた。
タイトルだけをざーっと見ながらDMを削除する。
一番下が最近来たメールだ。

(ん?)

見覚えのない名前。
タイトルを見ると、『おにぃちゃんへ』とある。

(はぁ!?真由からか?いつの間に俺のメールアドレス知ってたんだ!?)

メールを開けると妹から一言。

『まさにぃは真由だけのおにぃちゃんだからね。(ハァト)』

(なんだこりゃ。当たり前だろ、そんなこと)

2人きりの兄妹で、『真由だけの』も何もないだろう。
そう思いつつもさっきのことが脳裏をよぎり心臓がズキズキしてくる。

(くそっ。わけわかんねーよ)

返事も書かずにメールを閉じて、パソコンも閉じてしまった。

夕方になって母と父が帰ってきた。
どんな顔をして妹に会えばいいのか分からず、腹が減っているのに部屋から出られない。

「まさにぃーー、ご飯だよー!」

階下から妹の声が聞こえてきた。
ドキン!と心臓が痛くなる。

「まーさーひーろーーー!!」

大声で呼ばれて仕方なく「あいよ」と、聞こえない返事をしてリビングに下りる。

「また寝てたんでしょ。何回呼んだと思ってるのよ」

いつもと何も変わらない妹。
食事中、父が業務拡張のための出張があるとか、母が2晩続けて夜勤に入るとか言っていたが、何も聞いていなかった。
ただがむしゃらに飯をかき込んで、早く部屋に戻りたかった。

「雅裕、しばらくは夜は家にいなさいよ。真由1人じゃ無用心だからね」

「あ?うん。分かった」

食事中、俺がしゃべったセリフはこれだけだった。
何をどれだけ食べたかも覚えてない。
部屋に戻ってほっとしていると携帯にメールが入っていた。

「あいよっと」

携帯に向かって返事をして、暗証番号を入れる。

(また妹からだったら怖いな・・・)

期待半分、不安半分と言ったところだろうか。
新着メールを見ると予想ははずれ、見慣れた男友達からだった。

『明日の夜、空いてる?』

何だ?またコンパの誘いか?
どうせ俺なんて人数合わせだろうによ。

『空いてるけど、なんで?コンパだったら行かねーぞ』

何も考えずに返事を打つ。
すぐに着信音が鳴り響いた。

『お前好みの女の子を誘ってある。明日の夜8時に駅前集合』

何だよ、ほとんど強制じゃん。
上手いこと言って人数合わせに誘い出すつもりだな。
しかし、『お前好みの女の子』というところに惹かれてしまう。
俺だって恋のひとつやふたつしたいのだ。

『分かった。明日8時な』

それだけ返すと携帯をベッドに放り投げ、ベッドを背もたれにしてテレビを点けた。

翌日、俺はバイトだった。
ヘロヘロに疲れて家に帰宅したら、もう7時を回っていた。

(やべー、せめて風呂くらい入るかな)

初めて会う女の子達に汗臭い匂いを嗅がせて不快な思いはさせたくない。

(とりあえず何か飲むか)

冷蔵庫の前に立ち、いつも書き置きがしてあるホワイトボードを見てハッとした。

『お父さんもお母さんもいないから留守番よろしく』

そういえば聞いたような覚えもある。
おやじは出張だったっけ?
しまった、コンパに行く約束をしちゃったよ・・・。
冷蔵庫を開けて麦茶を出しながら色んなことを考えた。

(もう18歳なんだから、あいつ1人でも大丈夫だろ)

そう勝手に結論づけて、先にシャワーを浴びた。
着替えを取りに2階に上がると、ちょうど妹がトイレから出たところだった。

「あのさ、俺今日コンパなんよ。お前1人で平気か?」

途端に顔つきが変わる妹。

「コンパ!?」

「なるべく早目に帰るからさ、1人で留守番しててくれよ」

「なんでコンパなんか行くの?忙しくてそれどころじゃないんでしょ?!」

なぜか怖い顔つきになった妹が詰め寄ってくる。

「人数合わせに決まってるじゃん。すぐ帰って来るってば」

「あっそ。いいよ別に。あたしもこれから出かけるし」

「どこ行くんだよ」

「あたしもコンパ!!」

言うが早いか、歯を出してイーッという顔をされる。
なんで俺だけ怒られなきゃいけないんだよ。

「あんま飲み過ぎるなよ。早く帰って来るんだぞ」

すたすたと自分の部屋に向かう妹に向かって、やけくそのように言った。

「あ、鍵忘れんなよ!」

バタン!

部屋のドアを思い切り閉められ、俺の言葉はかき消されてしまった。

<続く>

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