やさしい母のプライベートレッスン・第2話

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『オールド・ボーイ』

韓国の映画。
知る人ぞ知る、悲しくも美しい物語。
デジタル放送で流されたのは2週間ほど前の金曜の夜。
仕事で父が遅かったり、出張でいなかったりする週末は、カラオケやゲームセンターに僕を連れてって、一緒に遊ぶのが母の楽しみ。
勉強ばかりじゃ脳みそも腐る。
たまには息抜きだって必要。
だから、その夜も母は、晩の食事を終えると、カラオケに行こうと僕を誘ってくれた。

僕はなんとしてもこの映画が観たかった。
いや、見せてやりたかった。
渋る母をなんとか口説き落として、居間のソファにふたり並びながら、大きなテレビで映画を観た。
母は映画もすごく好き。
でも、彼女が好むのは、もっぱらメジャーどころの映画ばかり。
さすがに、この映画のタイトルには覚えがなかったよう。
B級映画と思いこみ、初めはつまらなさそうに画面を眺めていたけれど、テンポのいい展開に、そのうちグイグイと惹き込まれていく。
主人公のオ・デスとミドの濃厚なラブシーンがくると、気まずそうに立ち上がり、キッチンの中へと消える。
復讐者ウジンの手下の歯を折っていくシーンでは、僕の腕にしがみつき、細い体を震わせていた。
やがて明らかにされる復讐の真の意味。
そして、オ・デスとミドの関係。
映画が終わったあとも、魂を抜かれたように、母はしばらくぼんやりとテレビを眺めていた。

「あんなことって、本当にあるのかしら?」

呆れたような大きなため息。
なんだか釈然としない顔。
ラストに明かされた衝撃の事実。
きっとそれまでは、言葉として知っているだけで、近親相姦なんて、自分とは縁遠い夢のような世界の出来事でしかなかったに違いない。
15年も人間を監禁する理由にしては、母の中で希薄すぎた。
天真爛漫な母。
彼女の中にそんな世界は存在しえない。

「意外と多いんじゃない?」

事もなげに僕は答えていた。

「そうかしら?」

それでも納得できないような顔。
言葉の意味を知ってても、その世界を知っているとは限らない。
でも、確かにその世界は身近なところに潜んでいる。
手を伸ばせば、すぐ届くところに相手はいる。
教えてやりたかった。

「でも、わからなければ、きっと大丈夫よね!」

胸のつかえを払拭するかのように母が明るい声を出す。
物語の最後。
自ら舌を切りとり、声を失ったオ・デスは、自分に催眠術をかけた女に再び催眠術をかけてもらい、すべてを知っている自分を殺して、実の娘ミドと、今まで通り恋人として生きていく道を選ぶ。

「わかってたって僕は平気だよ」

彼女の隣に座りながら、さりげなくつぶやいた。
目はテレビに向けたままだった。
一瞬、息を呑んだ母の気配。
まともに母の顔を見る勇気もなくて、僕は耳だけで母の様子を探っていた。
どんな返事が返ってくるのか。
ひどく顔が熱くなって心臓が痛いほどに鳴った。
結局、母は何も答えてくれず、気まずい空気が、2人の間を静かに流れただけだった。

母が僕の思惑にはっきりと気付いたのは、たぶんそのあたり。
ベッドの下には洗濯前の汚れた母の下着。
一緒に並んでいるのは、母なんかよりずっと老けたおばさんたちの熟女シリーズ。
意外と鋭い母。
見つけたのは、たぶんずっと前。
それでも、僕を傷つけまいと知らないふりをしてくれた。
僕は、はっきりと口にした。
これで気付かなければ、天真爛漫というよりも、天然。
もっとも、母にはその要素も十分に備わっていたけれど・・・。

その日を境に、母は明らかに僕を意識した態度。
何気に目が合ったりすると、慌てて逸らしたりする。
でも、僕の前では冷静を装って何食わぬ顔。

今夜も、彼女は危険な檻の中に自分の足でやってきた。
横には、2人並んで寝るには狭すぎるけれど、重なるにはまったく問題のないシングルベッド。
体重が40キロにもならない母は、きっと力では僕に敵わない。
身長は、とっくに母の背丈を追い抜いていた。
閉ざされた狭い部屋の中で、成長した飢えた野獣が虎視眈々と狙いをつけている。
それでも母はこの部屋にやってくる。
自分を狙う野獣がいると知っているのに。

しかし、この野獣、ちょっとだけ頭がバカだった。
いや、ちょっとどころか、ものすごくバカだった。
ようやく2問目を解いたところで、すでに小休止。
時計を見ると10時過ぎ。
脳みそから湯気が出て、今にも耳から流れてきそう。
冷たい机に頬を当てて、ちらっと横を覗くと、母の楽しそうな顔。

「嬉しそうだね」

ちょっとだけ、厭味。

「別に、そうでもないわよ」

顔が笑ってるって。

「すごくない?」

得意げに言ってみた。
今夜は参考書も見ずに自力でパスワードを解除。

「うん」

本当に嬉しそうな笑み。
母が今一番気に病んでいるのは、真ん中あたりで上がったり下がったりを繰り返す僕の成績。
狙いの高校に辛うじて引っかかる程度。
なんとか状況を打開しようと母は一生懸命。
僕だけが、ちょっと不真面目。
何よりも彼女には僕のやる気が一番のご褒美。
そして今夜の僕のご褒美は、おっぱい。
見るんじゃなくて、触らせてもらう。
条件は、昨日の問題ともう1つをすべて自力でやること。
頼りにしていいのは、一番頼りにならない僕の脳みそだけ。
ハードルは高かったけど、うまくいけば、そのままなし崩しにいける可能性だってある。
じつは昼間のうちに、頭のいい友達に解き方を教えてもらっていた。

「お前、こんなのやってるの?」

彼が目指すのは、一流と誉れ高い名門大学。
僕なんて彼にとってはアウトオブ眼中。
ライバルとも思われていないおかげで、意外と丁寧に教えてくれた。
解答欄を眺めていた母が首を傾げる。

「答え、間違ってるわよ」

「えっ!」

そんなはずはない。

「2つとも?!」

「うん」

母は、あっさりと頷いたりする。
そんなわけはなかった。
僕が答えを見ないように母は問題集を持って帰ってしまう。
だから記憶した問題を彼に教えた。
ひとつは、そんなに自信はないけど、あれほど苦しめられた昨日の問題まで間違ってるはずがない。
母が式を写した僕のノートに目を落とす。

「どうして、ここでこんな公式使うのよ!?」

(へっ?)

「これ、オームの法則じゃない!」

(おーむ?)

それって理科で習ったような・・・。
でも、これは数学の問題ですが・・・。

「ほんとにやる気あるの!?」

いつになく怖い顔。

「いや、ちょ、ちょっと待って!」

訳が分かんなかった。

「もう知らない!」

(あれっ?)

母は今にも泣きそうな顔で問題集を奪うように手に掴むと、立ち上がってしまう。
振り返りもせずに、ものすごい勢いで部屋を出ていった。

(あらっ?オームって・・・?あの野郎!)

心ある友人の暖かいアドバイスのおかげで、プライベートレッスン3日目が終了。
試合は、延長にもならずコールドゲーム。
再試合はあるのか?
進展どころか逆に退いた感じ。
アイツ、絶対に殺してやる!

今日は、朝からものすごく不機嫌な顔。
じっとりとした目つきで僕を睨むだけで、母は話しかけたところで返事もしてくれない。
僕なんかまるで無視して、彼女はキッチンの中。
洗った皿を拭きながら、ときどき僕を睨みつけたりしている。
二重まぶたの大きな瞳。
柔らかそうな髪の毛は肩の辺りまでしかなくて、大人の女性というよりは、ほとんど同級生のよう。
今夜はミニスカートじゃなくて華やかなキャミソール。
ひらひらとした可愛らしいギャザーフリルが一段と母を幼く見せていて、そんな母に睨まれたところで全然怖くなんかない。

やっぱり夕べのことは怒っているみたい。
僕だって努力はしてるのさ。
でも、こればっかりはね・・・。
すぐに頭が良くなるんなら誰も苦労なんかしないよ。
怒る気持ちもわからないではないけれど、仕方がないじゃん。
でも、ほんとにそれだけ?
小さな溜息を何度も吐いては、ひどくつまらなさそうな顔をする。
思い出したように僕に目を向けては、睨みつけてくる。

はいはい、わかりました。
頑張ります!
机に向かって、ひたすら鉛筆を走らせた。
今の僕にできることは可能な限り頭に詰め込むことだけ。
それ以外、他にいい方法も思い浮かばない。
苦手な教科は後回しにして、自分の得意科目を伸ばしていく。
理数系は苦手だけど、文系なら昔から得意の僕。
社会も、歴史ならそれなりに自信はある。

社会の問題集に目を落としていると、下から階段を上がってくる足音。
今夜は父が遅くに帰宅したせいで、時計を見ると、すでに10時すぎ。
半分諦めてもいたけれど、今夜も母は来てくれた。
彼女が部屋に入ってくるだけで、パッと部屋の中が明るくなったような気がする。
甘い香りが鼻に届いて、それだけで下半身がむずむず。
途端に、いけない妄想が頭の中に渦巻いていく。
僕の開いている問題集を見て、母が、おやっとした顔をする。

「数学はいいの?」

「あんな難しいのやっぱり無理だよ。苦手な数学とかは諦めて、得意なのをやることにした」

さっきまでの不機嫌な顔は消えて、なんだか心配そうな目つき。
さっそくの方針転換を打ち出してみたけれど、母は納得できなさそうな顔。

「大学なら、それでもいいところはあるみたいだけれど、やっぱり高校入試は平均的に出来ないとだめなんじゃない?」

「でも、あんな難しいの、やるだけ時間の無駄なような・・・」

「そんなことないよ。ちゃんと勉強したら出来たじゃない」

「そりゃ、時間をかければ出来るかもしれないけれど、もうそんな時間もないよ。それに・・・」

「それに?」

「ご褒美が少ないと、やる気にもならない」

きっぱりと言い切って母の顔を見つめると、とても困った顔つき。

「ご褒美が多かったら、やる気にもなるんだけれど・・・」

昼間無視されたことを根に持って、ちょっと意地悪く言ってみた。

「どんな・・・ご褒美ならいいの?」

なんだか今夜はひどく仕草が可愛らしい。
頬をほんのりと朱色に染め、母が覗き込むように下から見上げる。
気のせいか、いつもより唇が濡れ、光っているように見えた。

「エッチがしたい!」

大人しいのをいいことに思いっきり言ってみた。

「できるわけないでしょ!」

途端に手が伸びてきて唇のあたりをつねられる。

「じゃ、じゃあ途中まで!」

それでも負けじと頑張った。
また手が伸びてこようとするのをかわして・・・。

「じゃあ、おっぱいまで!」

このしつこさを勉強に向けろと自分に突っ込みたくなる。
呆れたような大きなため息。

「そのしつこさを勉強に向けられないわけ?」

まあ、そう思うよね。
でも、こんな自分が僕は好き。

「ご褒美くれたら、しつこく勉強する」

また手が伸びてくると思って構えていたら、母がクスクスと笑い出す。

「ほんとにしょうがない子ね」

もしかして勝った?

「ほんとに、しょうがないわね・・・」

呟くようにぽつり。
次の言葉を息を呑んで待っていると、母は何かを吹っ切るように大きく息を吐く。
そして、すごい目で僕を睨みつけたかと思うと、「母さんに変なことしたら承知しないわよ」と、今までに見たこともないような顔で凄んできた。
思わずたじろぎもしたけれど、次の瞬間、僕の時間は止まっていた。

母の顔が目の前にあった。
僕の頬を両手に挟み、母が唇を重ねてくる。
唇を強く押しつけてきて、とても濃厚なキス。
思わず固まっていると、口の中にヌルリとしたものが入ってきて胸がハッとなる。
ひどく甘い香りが鼻の中で暴れ回った。
夢が現実かわかりもせずに、反射的に僕は目を閉じた。
確かだったのは、僕の舌に絡みついてきた母の滑らかな舌の感触。
まるで生き物のように動いて、それは僕の舌を何度も追いかけてきた。
自然に母の背中を抱いていた。
強く抱き締めようとして不意に唇が離される。
目の前には、すごく赤い顔。
心なしか瞳がわずかに潤んでいた。
今にも泣きそうな目つきで見つめられ、なんだかひどく悪いことをしたようにも思えて、僕はまともに母の顔を見ることができなかった。
母は何も言わず、じっと僕を見つめたまま。
心が激しく動いて、何をすればいいのかも判らなかった。
何も言えず、ただ俯いていると、母の手がそっと頭に置かれ、優しく撫でてくる。

「しょうがない子ね・・・」

遠くを懐かしむような声。
ふとその時になって、目の前にいる女性が母親なのだという実感が生まれた。
いざとなると、やっぱり僕は意気地がない。
何をすることも、何かを言うこともできなかった。
不思議なことに、あれほど想っていた母が、なぜか遠い存在のように思えてならなかった。
どれだけの時間、そうしていたかわからない。

「今夜は、もう遅いから、明日からね・・・」

呟くように言って母が立ち上がる。
思わず母の手を掴んでいた。
そのまま母が消えてしまいそうで怖かった。
泣きそうな顔に向けられる優しい笑み。

「もうちょっと・・・我慢してね・・・」

そっと僕の手をはがし、母は立ち去ろうとしたけれど、急に思いとどまったように立ち止まると、彼女は背中を向けたままキャミソールの裾の中に手を入れていった。
足先からピンクの下着が抜き取られ、僕の目の前にかざされる。

「今夜は、これで我慢してね・・・」

おずおずと受け取った僕に寂しそうな笑みを向け、母は静かに部屋を出ていった。

プライベートレッスン4日目終了。
ひどく生温かい下着を手にしても、なぜか不安だけが胸に残る、気まずい夜だった。
身を切るような木枯らしの中を肩をすくめてしょんぼりと歩いた。
頭の中に浮かぶ、ひどく寂しそうな顔。

(やっぱり無理なのかな?)

すごく欲しいけれど、彼女の苦しむ姿は見たくない。
いつも笑顔だけを見ていたい。
あどけなくて可愛らしい母。
笑ったままで「いいよ」って、言ってもらいたかった。
すごく贅沢な望み、親子であるわけない。
それでも一生懸命、僕の身体にしがみつかせたかった。
あのきれいな声で「もっと」って、言わせたかった。
あの可愛い顔がどんな風に歪んでいくのか・・・目の前で見たかった。

想像したら、それだけでバカチンが元気になった。
恋人が右手だけじゃ、やっぱりこいつも可哀想。
だめな俺を許しておくれ。
母の顔を見る勇気もなくて、今朝は逃げるように家を出た。
おかげで午前中の辛かったこと。
お腹の虫は、まだ治まりきらず。
腰を屈めながらとぼとぼと歩いていくと、いつの間にか玄関の前。
想像しただけで口から漏れてくる大きなため息。
どんな顔をすればいいのやら。

<続く>

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