セルフボンテージの快感から抜け出せない私・第1話

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お盆が近いせいか、社員もまばらなオフィスはどこか空気が緩んでいる。
窓の外には変わらぬ鈍色の街並み。
オフィスの向こう側では後輩OLが小声で私語を交わしていて(たぶん休暇の話だ)、暇そうな課長も不機嫌そうにそちらばかり睨んでいる。
両隣の同僚は休暇中で、PCのモニタと書類の束がうまく私の姿を隠している。
誰も、私を見ていない。

「ンッ・・・」

(あ、ダメ、声が出ちゃ・・・)

ゾクンと四肢を犯し抜く被虐の波に鼓動が止まりかけ、私は大きく息を喘がせた。
どっと冷や汗が流れ、息を殺して肩でオフィスの様子を窺う。
大丈夫。
まだ誰も倒錯した私の遊戯に気づいていない。

ランダムな振動で淫らに私を責めたてるのは、浅ましく男を模したバイブレーターだ。
会社の制服の下、微かに波打つスカートの奥にみっちり埋め込まれたソレは、細い革紐でお股に縛りつけられ、どんなに腰をよじっても抜けないようにされているのだ。

肉の合わせ目から愛液が滲み出る。
ヒクヒク咀嚼するクレヴァスの潤いは、下着を穿いていない今の私にとって致命的だ。
このままではあっという間にエッチなオツユがストッキングに浸透し、制服のスカートに惨めな染みを作ることになる。
後ろ手に組んだ両手が痙攣している。
根元のスイッチを止めるだけなのに、自分の胎内に埋まったソレに触れられない焦り。
分かっている。
どうにかしてこの姿から逃れないと。
なのに・・・。

「ん、フッッ」

カチンと、聞き慣れた残酷な施錠の音が、手首から直に体の芯にまで響いてくる。
・・・これで、本当に私は拘束されたわけだ。

(完成。もう逃げられないね、私)

素知らぬ顔で書類に目を落とすふりをしつつ自分に呟き、私はゆっくり突っ伏した。
今や、キーボード上に置かれた小さなキーリングに私の命が委ねられているのだ。

(本当にやっちゃった・・・私、仕事中にいけないことしてる・・・)

潤んだ瞳で見下ろす私の後ろ手の手首に・・・清楚な半袖の制服には似合わない無骨な革手錠がしっかり食い込んでいるのだ。
バックル部分に鍵までついたソレは、見ただけでマニアックな道具だとわかる淫靡な光沢を放っている。
革と金属で織り成された、非力な女の力では絶望的な拘束具。
どうにかして机の上のキーリングで南京錠を外さない限り、私はバイブの責めからも、自縛したいやらしい姿からも二度と抜け出せないだろう。

(・・・)

ひくりと不自由な手首が背中でくねる。
後戻りできなくなるこの一瞬、いつも突き上げる快楽でカラダが我を見失っていく。
スリルと裏腹の快感を貪る、刹那的な快楽。
破廉恥な自縛を、仕事場に持ちこむ極限のスリルの凄まじさときたら・・・。
チラリ、チラリと肩越しに視線を落とすたび、とろけるような被虐の波が制服の下を走り抜け、子宮の底からカラダがキュウッと絞り上げられるのだ。

もし、カギを床に落としてしまったら。
もし、後ろ手錠から逃れる前に上司や同僚にこの姿を見られたら。
ほんの些細な行き違いで、すべては破滅に繋がるのだ。
自分で自分を追いつめていく恐怖が、ゾクゾクッとたまらない陶酔に変わっていく。
ひとしきりジクジクッとアソコが異物を食い締め、ショックめいた刺激が背筋を這い上がった。

気持ちいい・・・こんな惨めなのに、追い込まれているのに。
職場で拘束されちゃってるのに・・・バイブで、とろけさせられちゃってるのに・・・。

「あ、そ~なんだ。それでその日に」

「ちょうどツアーの申し込みに間に合ったんです。だからね・・・」

はっと気づいた時、後輩たちの囁きはまだ続いていた。
一瞬、あまりの昂ぶりで意識が飛んでいたらしい。
その事実に血の気が引いた。
急がないといけないのに、私、なんて危ういんだろう・・・。
ドクンドクンと早鐘のように心臓が跳ねまわり、下腹部だけがみっしりバイブを噛みしめて濡れそぼっている。
肩を揺すり、私は薄れかけている理性を呼び戻した。
後ろ手に、足首に、股間に食い入る縛めを確かめなければいけない。

「ん・・・ンクッ」

不自由なカラダをキシキシ小さくくねらせ、私自身の施した大胆な拘束に酔いしれて吐息を漏らす。
後ろ手の手錠同士を繋ぐ鎖は椅子の背もたれに絡みつき、両足首もキャスターの調節金具に固く縛りつけられて座面の裏から吊られたまま。
キャスター椅子と一体化した四肢は、もはや立ち上がる自由さえ奪われているのだ。

(まず、キーリングを・・・)

上体を屈め、首を伸ばした私は唇を開いてキーボードに口づける。
キーリングを歯で咥え、それを膝に落とす。
その後、不自由な背中の両手をひねってどうにかカギを手に取り、そのカギで南京錠を外す。
それから革手錠をほどき、最後に両足をほどいて、スカートがオツユまみれになる前に化粧室に駆け込む。
・・・はっきり言って、かなり絶望的だ。

「ダメ」

小さく、ほんとに小さく自分を叱咤する。
危うければ危ういほど、スリルを感じるほど、私のカラダは濡れてしまう。
そうなったらもう自分をコントロールできないのだ。

色づく喘ぎをひた隠し、前歯でキーリングを咥えたまま、そっとあごを引き戻す。
慎重に膝の上に落とさないといけない。
弾んだキーリングが床に落ちたら、私は拘束から抜け出す手段を失うのだから。
腰を丸め、カギを咥えたまま顔を下げていく・・・。

「・・・!」

と不意に、圧力めいたものを感じてカラダが反応した。

まさか。
そんなはずはない、気づかれるはずがない。
最初から周到に時期を練っていたのに。
今日だって、目立たないように振舞っているのに。
なのに。

恐る恐る顔を上げる。
・・・自分のデスクから、かっと目を開いた課長が食い入るような凝視を向けていた。
横たわっていたカラダがガクンと弾む。
全力疾走の直後のように、呼吸も鼓動も妖しく乱れきっていた。

(バレてしまった・・・)

全身が冷たく汗ばみ、パールホワイトの壁を睨み続けている。
やがて徐々に、私の意識が現実の輪郭を取り戻してきた。

「課長・・・私、天井・・・夢・・・?」

そう・・・夢だった・・・。
リアルすぎる、あんなの・・・。
悪夢だったと気づいても、なお全身の震えが止まらない。
火照るカラダのあの疼きは、紛れもない、かっての私自身の経験の再現なのだから。
死ぬほどおののいた今のアレが、私の夢・・・。

「一人エッチの・・・やりすぎのせい?」

広々した天井に問いかけてみる。
答えなど当然ない。
静かなベッドルームに時計の針に交じって雨音が響いてきた。
ザァァっと激しい音。
どうも、これに浅い眠りを破られたらしい。
ていうか、夢の中でまでセルフボンテージしてよがってるなんて。
私・・・私って。
さりげなくネグリジェの中に手を差し入れ、そうして、やはり赤面してしまう。
反応していた私のカラダ。
無意識にもやもやが溜まっていたのかもしれないけど、それにしたって。

「・・・あは」

誰に見せるでもなく照れ笑い。
いい年した女が少女のような夢を見るなんて・・・はっきり言って恥ずかしい。
大きく寝返りを打って窓の方に向き直ると、横たわるカラダを包んだタオルケットめがけ、にゃーと声を上げて、愛猫のテトラが飛び乗ってきた。
ペットの子猫の瞳には、動揺する主人の顔がどんな風に映っているのか。

「よしよし、おはよ」

「ニャー」

無邪気な子猫の顔に苦笑は深まるばかり。
そして、夢と同じく空は鈍色に濁っている。
・・・私の夏休みは嵐から始まった。

「ありえないよね、会社でSMなんて」

とりあえず点けたリビングのTVは、主婦向けのバラエティを流している。
お気に入りの場所らしい私の膝にじゃれかかるテトラに話しかけつつ、私はぼんやり夢の余韻を味わっていた。
慣れた小道具を手の中で転がし、弄ぶ。
あれを・・・あの異常な体験の意味を、私は理解している。
自分で自分を拘束し、マゾの悦びと脱出できないかもしれぬ絶望感に酔いしれる行為。
それはSMプレイの1ジャンル、いわゆるセルフボンテージだ。

1月前、アパートの前の住人、佐藤志乃さんに届いた小包がすべての始まりだった。
私、佐藤早紀と同じ苗字・・・。
小包の中から出てきた奇妙な革の衣装・・・。
送られてきた志乃さん本人の自縛シーンを映したビデオ。
偶然が重なってセルフボンテージという特殊な性癖に私は興味を持ち、いつかその痺れるような快楽に溺れてしまったのだ。

ネットを通してか、誰かに調教されていたらしい佐藤志乃さん。
あまりに耽美な姿は今も私を虜にしている。
自分自身に不自由な拘束を施し、人目に触れるリスクを犯す、そのたまらないスリル。
被虐的な陶酔に呆けつつ、必死に縄抜けの手段を試みるいじましさ。
誰に何をされても抵抗できない無力感。
そして、普通のセックスやオナニーでは到底到達しえない、深すぎるマゾの愉悦。
けれど・・・セルフボンテージに嵌まる一方で、悩みもまた深まりつつあった。

「彼氏・・・できないよね。こんな変なクセ、カラダにつけちゃったら満足できなそう」

「ミ?」

首をかしげる私につられてテトラも顔を傾ける。
会社のOL仲間はむろん、友人にも周囲の人間にも、私は自分の性癖をひた隠している。
拘束されないと、縛めに酔わないと、感じることもできないカラダ。
望んで自分を作り変えたとは言え、やはり彼氏を作りにくいのも確かなのだ。

「やっぱSM系の出会いとか、か・・・でも、あれは怖いよね」

そうなのだ。
セルフボンテージにのめり込むうち、本当のご主人さまが欲しくなって奴隷になってしまうなんて話は割にSMの出会い系サイトでも目にする。
けど、たぶんそれは私の心の望みじゃない。
たとえば好きな人ができて私と一緒にいてくれた時、その彼氏がご主人様の顔をして私を虐めてきたりしたら。
ちょっと目を閉じて想像してみる・・・けれど。

「うわ」

・・・うん、ダメだ。
なんかくつろげない。
嫌な感じ。
自分が自分じゃない気がする。

私にとっての自縛は、自分を安売りするものじゃない。
・・・なんて言ったらSM好きな人間は怒るだろうか。
私の中にはSもMも均等に存在しているのだ。
自分を虐め、溺れながらも見失わない。
その危ういコントロールがまさに私を捕らえて離さないのだから。
それに、もし誰かに調教されるのなら、私がSMに嵌まるきっかけを作った志乃さんのご主人さま以外は嫌だ。
こっちの方が気持ちの大きな比重を占めてるかもしれない。

ふぅ。
朝から何を考えているんだろう、私は。
夢の余韻がじんじんとカラダに広がって、理性を取り戻すどころか、だんだん・・・。

「やだ・・・なんか、したくなってきちゃった・・・」

ボソボソと一人言。
休暇の初日から一人エッチをして過ごすなんて不健康な気がする。
すごく、するけど・・・。
躊躇いがちな瞳を向けるその先には、拘束具や手錠、ボールギャグを収めた私専用の調教道具入れがあり、私のカラダを欲している。
幻想じみた甘い誘惑。
さっきから手の中で弄ぶソレに目を落とす。
使い込まれ、私の手首の味を覚えこんだ革手錠の光沢が、主を魅了していた。

いつものように、いつもの準備。
何度となく慣れているはずの行為なのに、心は逸り、体温がとくとくと上昇していく。
私自身のための縛めを一つ一つ用意していく、その過程自体が被虐的なのだ。
革の光沢と、金属のきらめき。
革手錠といっても警官の手錠とは形からして違う。
中世の奴隷が手首に嵌めるような頑丈な革の腕輪が短い鎖で繋がり、ベルトのバックル部分には勝手にはずせないよう南京錠が取りつけられる。
悶える奴隷の汗を吸う革手錠は、小さいながらも無慈悲で、強固な牢獄なのだ。

「んぁ・・・もう、こんなに」

ノーブラのブラウスの上からでも分かるほど乳首がツンと勃ってきている。
今の私はだぶだぶのブラウスをハダカの上に引っかけただけ、まさに1人暮し仕様だ。
ルーズなこの格好は前の彼氏のお気に入りなんだけど、思い出すとブルーになるので頭の隅に記憶を追い払う。

(どのみち、すぐに服なんか着れなくなっちゃうんだから・・・)

ゾクゾクッと走るおののき。
弱めにしたクーラーが、緊縛の予感に火照りだす肌をすうすう撫でる。
服を脱ぎ捨てて裸身を曝け出し、全身にまとう拘束着を広げながらこっそり指先で弄ってみると、秘めやかなとばりはすでにじっとり潤いだしていた。
ベルベッドのように柔らかく、危うい自縛の予感。
肌を食い締めるだろう窮屈な感触を思いだすだけで、どこもかしこも充血していく。

(今日は・・・どうやって自分を虐めようか?)

迷って、普段使うことのない麻縄の束を手にしてみた。
ろうそくやムチと並んで、縄を使った緊縛はSMの代名詞の一つだろう。
女性の肌を噛みしめる後ろ手の美しい緊縛はMッ気のある子なら誰でも憧れるけど、一人きりのセルフボンテージで後ろ手縛りはほとんどムリに近い。
それでも縄が肌を締めあげていく淫靡さや独特の軋みは、確かに心を震わせる。

「・・・」

久々の縄の手触りに息を呑み、フローリングの床にペタンと座った。
大きくお股を開いて足首を水平に重ね合わせ、手際よく縛り上げていく。
いわゆるあぐら縛りだ。
曲げた左右の膝の上下にも縄をかけ、太ももとふくらはぎが密着する体勢をとった。
思いきり裂かれたお股が、人知れぬ惨めさにぷっくり充血していく。
もちろん、期待に潤むクレヴァスへの責めも忘れない。
さっきの夢にも出てきた、革の固定ベルトを腰にまわした。
垂直に垂れるY字の細い革紐を、お尻の方から下にまわしていく。
谷間に潜りきったところで一度手を休め、小さな逆三角形のプラグを取り出した。
丁寧に口でしゃぶり、塗らしてからお尻の穴に宛てがう。

「ん・・・っッ」

つぷん。
お尻いじめ専用のアナルプラグが、窮屈な括約筋を広げつつ胎内に入ってくる。
マゾの女の子はアヌスでも感じることがある・・・。
ネットで仕入れた生半可な知識を元に始めたお尻虐めの儀式は、今や私を病みつきにさせていた。
ノーマルじゃない刺激とタブーが、入れてはいけない場所、感じるはずのない汚れた場所に異物を挿入する背徳感が、たまらないのだ。

ニルニルと、意志に関係なく菊花が拡張されていく異物感。
プラグが抜けないようにベルトで押し込み、お股をくぐらせていく。
カラダの前でY字の部分を広げ、女の子のとばりを左右に掻き分けて革紐を食い込ませた。
ニチャリと粘つく肉ヒダを奥まで曝け出され、恥ずかしさがカァッと肌を火照らせる。

「んあっ、ァァ・・・」

顔を赤くしながら、私は充血した土手に埋もれる革紐をきゅうっと引っ張りあげた。
つっかかっていたお尻のプラグが根元までスポンと嵌まりこみ、くびれた部分を括約筋が深々と咥え込む。
そのまま腰のベルトを固定してしまうのだ。
次第に昂ぶる快感に急かされ、私は上半身にもどかしく革の拘束具を着ていった。
乳房の上下をくびり、腕とカラダを一体化させる残酷な上衣。
本来、佐藤志乃さんが着るはずだった戒めが私のカラダを這いまわる。
割りと自信のあるオッパイが革紐のせいでたぷんと大きく弾み、チリチリしたむず痒さが、拘束着の食いこんだ肌を敏感な奴隷のそれに作り変えていく。

最後にバイブのスイッチを入れてから濡れそぼった肉の間に深々と飲み込ませ、首輪から吊りさげた手錠に後ろ手を押し込んでいく。
たどたどしく手錠の革ベルトを絞りあげ、手首が抜けなくなったのを確かめて、震える指先でバックルに南京錠を嵌めこんだ。
カチンと澄んだ音色が、私の心を隅々まで深く揺り動かす。

「ん、ンフゥゥッ」

完成・・・。
かってないほどハードで、ただの呼吸さえつらい自縛が私の自由を奪ってしまった。
これでもう、私は戻れない。
逃げられない・・・自力で抜け出すしかないんだ・・・。
とっくにリング状の革の猿轡をかまされて声を失った唇が、甘い睦言を紡ぎ出す。
後ろ手緊縛の完璧さを感じたくて、私はギシギシと裸身を揺すりたてた。

「ンッ、くぅっン!」

途端にミシリと裸身がひきつれ、革ベルトの痛みで全身が悲鳴をあげる。

(ウソ・・・どうして、予想より全然ヒドい、激しすぎる・・・)

首を突き出したまま、私は焦りにかられて思わぬ呻きをあげていた。
あぐら縛りの縄尻が首輪の正面リングに短く結ばれ、もはや私は不自由な前屈みの拘束された姿勢のまま、床を這いずることさえ不可能になってしまったのだ。

俗に“海老縛り”と呼ばれる、残酷な拷問用の緊縛。
その緊縛を自分自身に施してしまった今、下半身も両手も達磨のように軋むばかりで、なに一つ自由にならないのだ。
この自縛姿から逃れるためには南京錠のカギを外し、なんとしても後ろ手の手錠をほどかねばならない。
それが唯一の望みなのに・・・今の私に、本当にソレができるのか・・・。
快感に理性が狂って、無謀なセルフボンテージに挑戦してしまったのではないのか・・・。

「にゃ、ニャニャ?」

いつになく興奮して室内をうろつきまわるテトラを見つめ、私はうっとり絶望感に酔っていた。
彼女の首輪から下がった小さなカギ。
あれを取り戻さない限り、私が解放されることはないのだ。
後ろ手のこのカラダで、一体どうすれば子猫の首から鍵を取リ戻せるというのだろう。

ブブブブ・・・。

必死に脱出プランを練る私をあざ笑って、バイブの振動はオツユを滴らせるクレヴァスをグリグリ掻き回し、残酷にも私から思考能力さえ奪い去ろうとする。

「あぁ・・・」

思いつきかけたアイデアがぷつんと甘く途切れ、私は淫らな吐息に溺れきっていた。
かって一度もしたことのない、ギリギリの危ういセルフボンテージ。
もはやこのステージから降りる道はない。

・・・。

静かに室内に響くのは、深く胎内をえぐりまわすサディスティックなローターの振動。
ふぅ、ふぅぅっと荒い呼吸が、リングギャグの輪の中から溢れ出る。

「ンッ、んぐぅ」

すでに自縛を完成させてから50分近くが経過していた。
いつもならとっくに甘い快楽を貪りつくし、おだやかな余韻に浸りながら手錠の痕を擦っているぐらいの時間・・・。
緊縛されきった私の肢体は、座りこんだ場所からほんの1ミリも移動していなかった。
縛めを皮膚に食い込ませたまま、自分の無力さにさいなまれたまま灼けつく焦燥感に身を焦がすだけの、絶望しきった奴隷の終わり。
なのに容赦なくトロけきったマゾのカラダだけは、意志と無関係に昇り詰めていく。
焦りが、おののきが深くなればなるほど、スリルは快楽の深みを増し、毛穴さえ開いた裸身の隅々まで、くまなく刺激を伝達していくのだ。

「ぐッ・・・!」

口の奥まで咥えこんだ鉄のリングにギリギリ歯を立てる。
何度となく湧き上がる淫らなアクメを噛みしめ、共鳴しあう2本のバイブがもたらす疼痛の激しさにダラダラと涎をこぼしつつ、私は必死に汗を迸らせてイキそうなカラダを押さえつけていた。

(ダメ・・・ここでイッたら、また頭がおかしくなる・・・その前に・・・早くテトラから鍵を取り返さないと・・・)

「くぅ・・・ン、ンンンっっ」

しかし・・・。
やけになってギシギシッと悶えても、念入りに締めつけたベルトが緩むわけもなく、拘束具が軋み、あぐら縛りの縄とともに重奏を響かせるばかりだ。
縛り上げられた全身を、キリキリ苦痛めいた拘束の衝撃が走り抜けていく。
どんなに深くても、仰け反るような快感の波でも、私は海老縛りの苦しい格好ですべてを飲み尽くすしかない。

自分でコントロールできない、無理やりな刺激の狂おしさ。

べったりとフローリングの床にお尻を押しつけているせいで、いやでも括約筋の根元までプラグが食い込み、前のクレヴァスに埋まったバイブと一緒に直腸を擦りあげてしまうのだ。
おぞましい器具を咥え込んだ下半身の粘膜は、雫を溢れさせてヒクヒクと咀嚼を始めていく。
カーテンを開け放った窓からは嵐の昏い街並み。
アパートの9階だけあって、周囲から私の部屋を覗けるビルはないだろう。
それでも、恥ずかしい自分を窓の外に曝け出しているというスリルが、止め処なく熱いオツユをクレヴァスから溢れさせるのだ。

「んっ、んん~~~~」

(ダメ、イク・・・また、またイクッッ・・・)

高々と被虐の快楽に載せあげられ、目を見張ったまま私は部屋の隅を凝視していた。
服のチェックに使う鏡に、今はそそけだつほど悩ましい、たゆんたゆんとオッパイを揺らして、潤んだ瞳でSOSを訴えかける女性が映っている。
どう見ても抜け出す望みのない、完璧な拘束姿。
腰をひねるたび、血の気を失いつつある後ろ手の手首が視野に映りこみ、痛々しさをより深めている。
そして何より感じきっている証拠。
お股の下の床に、お漏らしのように広がる透明な液体の池・・・。
ぶわっと鳥肌が全身を貫いた。

これが・・・AV女優みたいなSM狂いでよがるこの格好が、私の本当の姿なんて・・・ウソ、違うのに。
ほんの少しエッチな気晴らしが欲しかっただけなのに・・・。

「ぐ・・・うぅ、うんっッンンッッ!!」

しまった・・・思った時にはもう遅かった。
エッチな姿を再確認したことで、理性でねじ伏せていた被虐の炎がムラムラと大きく燃え上がったのだ。

惨めで、エッチで、助かりそうもない私。
恥ずかしい姿で、このまま最後の最後までイキまくるしかないなんて・・・。
ゾクンと律動が、子宮の底が、大きくざわめく。
ぞわぞわ。
バイブに絡みつき、その太さを、激しい振動を、寂しさを紛らわす挿入感を堪能していた肉ヒダが一斉に蠢きだし、奥へ奥へと引き込むようにバイブへとむしゃぶりついていくる。
足の指が引き攣れそうな止め処ない衝撃と、めくるめくエクスタシーの大波・・・。
お尻が、クレヴァスが、シンクロした刺激のすべてが雪崩を打って全身を舐めつくす。
とぷとぷっと革紐の隙間から滲み出るオツユの生温かささえ気持ちが良くて。
びっしょり汗にまみれて魚のヒレのように一体化した上半身の縛めが、後ろ手に固く食い込んでくる革手錠の吸いつきさえもがたまらなく良くて。

「ふごぉぉ!」

怒涛のような昂ぶりに押し流され、メチャクチャになった意識の中で泣きわめく。
もういい。
もう刺激はいらない。
イキたくないのに。
良すぎて、視界が真っ白で、もう充分だよ・・・。
腰が抜けるほどイッたんだから・・・。
イヤァ・・・許してェ・・・壊れちゃうよ。
こんなの、知らなかった・・・。

よがってもよがっても、何度高みに達しても、すぐにその上をいく快楽の大波にさらわれていく恐ろしさ。
尖りきった乳首から母乳でも噴き出しそうなほど、オッパイがコリコリにしこりきって、その胸をプルプル震わすのが最高の快感で・・・。
あまりの拷問に、瞳からじわりと苦しみの涙が流れだす。
背中を丸め、何も出来ないままブルブルとゼリーのように拘束された裸身を痙攣させ続けて・・・エクスタシーの絶頂の頂点に昇り詰めた私は、さらに深い奈落の底へ転がり落ちていく。

<続く>