地味で不器用な読書部のタケチー先輩・前編

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俺が中学の頃の話。

俺の通う中学はなんか厳しくて、塾や学校外での習い事など家庭の問題など特別な場合を除き、絶対に部活に入らないといけないルールがあった。
4月頃は新入生への勧誘もしつこくて、先輩が1年の教室の前で出待ちしてるくらい熱心。
そういうのが面倒臭い俺は事前にゆるくて楽そうな文化部に入ることにした。

最初に見学したのは吹奏楽部、しかしこれがとんだ文化部の皮を被った体育会系。
体力作りにランニングもやるし練習はキツイし、女だらけで性格もキツイ奴が多い。
ドラマの大奥みたいな雰囲気というか、妙にドロドロしてて派閥があって、とにかく上下関係が凄くて挨拶も声が出てないとドヤされるようなノリ。

そこで次に行ったのは美術部、ここも女だらけだが皆大人しい。
しかし、今で言う『腐女子』ってやつだろうか。
言ってる事が半分もわからないし、なんかスケッチブックに絵を描きながら「デュフフ・・・」とか笑ってて、違う意味で怖かったのでここもアウト。

次にパソコン部に行ったが、パソコンなんてこの時期の俺はキーボードをそれっぽくカタカタやるハッカーのモノマネくらいしかした事がない素人ぶり。
先輩のメガネデブから「えっ!ブラインドタッチって何か知らないの?デブーイッテヨシ」とか言われた。
実際にはデブーとは言ってなかったと思うが、それよりなにより部屋中ワキガ臭かったので1分で外に出た。
その後もしばらく目がシパシパした。

そんな俺が次に行ったのが読書部だった。
まあ、平たく言えば本読んでるだけだし楽そうに見えた。
何より個々に本を読んでるだけだから、特別なにか先輩風を吹かせる人も居ないし、練習なんてものも無い感じがとにかく俺にベストマッチだった。
他にも何人か同じような魂胆で入部してる奴もいた。
どいつもこいつも漫画しか読まないような奴だった。

読書部はゆるいのが人気なのか結構な人数がいるが、ほとんどが幽霊部員で構成されていて、2年生や3年生には名前だけでほとんど部活に顔を出さずに外で遊んでる人が大半。
1年生と比べると、2年生と3年生が図書室にいるのは部活のついでに真面目に勉強する人か、本当に読書が好きな人しかいない感じだった。

1年生の部員も6月くらいになるとほぼ同じ状態になる。
真面目で性分的にサボったり出来ない奴か本が好きな奴しか来なくなる。
俺もそのまま行ってたら幽霊部員になっていたはずだったが、ある一人の2年生の先輩が俺にそれをさせなかった。

竹内千枝子、通称タケチー。
メガネでおさげで小柄、地味を絵に描いた地味さ。
本が大好きで一際熱心に本にかじりついている本の虫。
とにかく暗いイメージで、ほとんど人と話す時も目を合わせない。
話しかけると挙動不審になる、これが俺の第一印象だったが。
まあ、深く知り合った後もほぼこのままの人だった。

タケチー先輩は無口で周りから責任を押し付けられても断れない人なので、部長をやらされていた。
部活中に五月蝿い奴が居ても蚊のなくような声で「皆さん・・・静香にしてくださ・い」とか、呼びかけても本人が一番静かなので周りには聞こえない。
どうしていいか分からず、しばらくオロオロしてるが結局諦めて座ってしまう。
俺はそれを見てどん臭い人だなと思ってた。

そんなタケチー先輩は勉強は出来るらしく、特に国語の成績が断トツで、自分でも本の感想とかを熱心に書いてるようだった。
運動はからっきしで、とにかく体を動かす事は走っても歩いてるみたいだし、投げても置いてるみたいだし、飛んでも落ちてるみたいだともっぱらの評判だった。
要するに『文学少女』というやつかな、よくわからないが。
だから皆が帰った後でもタケチー先輩は一人で図書室で本を読んだり、何かを原稿用紙に書いたりして最後まで残って、そして戸締まりをして帰るのが彼女の日課になっていた。

んで5月も中頃、本当はさっさと帰るつもりだったのに、午後から土砂降りになり、傘を持ってきてない俺は学校に足止めを食らった。
仕方なく図書室で小降りになるのを待とうと思った。
ガラっと図書室の扉を開けると誰も居ない。
どうやら雨ということもあり、傘を持ってる奴らはさっさと帰ったようだ。
いつもは居るはずのタケチー先輩も所定の隅っこに居ない。
まあ、おおかた彼女の場合はクラス委員でも押し付けられて遅れてるのだろう。
彼女が部活をズル休みするタイプには思えない。

そんな事には構わず俺は、『はだしのゲン』だったか『火の鳥』だったかを棚から抜き取って読みながら雨が収まるのを待ったが、なかなか小降りにならずに1時間ほど過ぎて、5時間目が体育だった俺はだんだん眠くなってしまった。
そのまま寝てしまい、小さい手が恐る恐る体を揺するまで完全に爆睡してしまった。

「あの・・・ウラキ君・・・おきて・・・」

「ん?あ?タケチー先輩おはよっす・・・」

「あっ・・・うん・・・おはようございます・・・」

下級生相手でも敬語のタケチー先輩は、初めて喋る俺に恐る恐るという感じだった。

「俺の名前知ってたんすね」
「うん・・・一応名簿持ってるし・・・部長だから・・・」

「そうですか」
「うん・・・」

ここでお互い次の言葉が見つからずに妙な空気になる・・・。

「い、今何時ですか?」
「えっ・・・あっ18時半です・・・もうここ閉めないと・・・」

「あっ、すみません。俺のせいで帰れなかったんですね」
「ううん・・・私もさっきまで本読んでて気がつかなかったから」

「もしかして毎日このくらいの時間なんですか?先輩って本当に本が好きなんすね。それじゃあ出ましょうか」
「はい・・・」

・・・という事で、二人で戸締まりを確認して職員室に鍵を届けにいく。
なんとなく二人でそのまま歩いて下校することになってしまった。

下校中、ほとんど俺が一方的にしゃべって彼女が答える感じだった。
俺は別に何とも思ってなくて、なんとなく方向が同じだし、真っ暗な中、頼りない感じのタケチー先輩を一人で歩かせるのが気が引けたのかもしれない。
タケチー先輩は俺の話を控えめに笑いながら楽しそうにしていた。
メガネを取って笑うと意外と可愛いのかな?とかくらいは考えたかな。
でもその時はクラスに好きな子がいたし、やっぱり好きとかじゃなかった。

んで二人で歩きつつ、もうすぐお互い別の道でお別れというところで、後ろから狭い道をすごいスピードで車が走ってきた。

「先輩危ない!」
「きゃっ・・・」

思わず引き寄せた。

冷静に考えると狭いと言ってもそれほどじゃなかったけど、なんとなく咄嗟に彼女を道の端に引き寄せて自分が盾になる感じで庇った。
今考えるとこの判断はわりと的確だったと思う。
なぜなら、ぶつかりはしなかったものの、ハイスピードの車は、雨で出来た巨大な水たまりの水を大きく跳ね上げて、ザバッと盛大に泥水を跳ね上げたからだ。
俺は結構体格が良くて当時中1で178cmくらいあった。
だから小柄な先輩を上手く覆い被せる感じで泥水から庇うことが出来た。
その代償として下半身は完全にずぶ濡れになったが、先輩は靴が濡れた程度で済んだ。

「大丈夫すか?」

「あ・・・え・・・うん・・・ありがとう・・・」

「つーか酷い奴だな、こんな狭い道あんな飛ばしてきて!」

落ち着いたらやたら腹が立ってきた。

「あの・・・ウラキ君・・・もう大丈夫だから・・・あの・・・」

ハッとなって改めて自分とタケチー先輩の体勢を見て慌てた。
端から見るとどう見てもカップルが情熱的に抱き合ってる感じにしか見えなかっただろう。

「あっ、すんません!」

慌てて離れる俺。
慌てすぎて片足が水たまりにズブっと落ちる。

「ううんいいの・・・それより大丈夫?」

タケチー先輩が心配そうに俺のズボンに目を落とす。

「いや・・・大丈夫ですよ。このくらいすぐ帰って乾かせば」

「ごめんなさい・・・」

なんか今にも泣き出しそうなタケチー先輩。

「いや、先輩のせいじゃないですよ。あの馬鹿野郎が悪いんだか・・・ヘックしっ」

まだ5月で肌寒い日だったので歩いてるうちに寒くなってきた。

「ウラキ君大丈夫?」

心配そうなタケチー先輩。

「だ・・・大丈夫っすよ」

・・・と言うが、正直マジで寒かった。

「じゃあ・・・俺はこっちですから・・・」

若干震えつつ先輩にさようならを言おうとしたら、「ウラキ君、私の家そこだからちょっと来て・・・」と言い出した。

「いや・・・大丈夫ですって」

「でも悪いから・・・悪いから・・・」

なんか今にも泣きそうな先輩にほだされて俺はそのまま先輩の家に行くことに。

先輩の家・・・というか、アパートは本当にすぐ近くだった。
先輩のアパートはとても古い感じのアパートだった。
俺と先輩が先輩の部屋に行くと部屋の中は暗くて誰も居なかった。

「先輩・・・お母さんとかは?」

「うちお父さん居ないの。お母さんは仕事で遅くなるから・・・」

「えっ・・・」

内心そんな所に男連れてきてまずくね?と思ったが、そんな事を言葉に出すと益々やばい雰囲気になりそうで言わなかった。
先輩はタンスからタオルを取り出すと、玄関で突っ立ったままの俺の所にきて頭をタオルで拭いてくれた。

「あっ・・・自分でします」

そう言って強引に先輩からタオルを取る。

「あのズボン・・・乾かさないと・・・脱いで」

「ええっいいですよ、本当大丈夫ですから」

「でも悪いから・・・」

・・・という感じで玄関で押し問答。
いつもは押しの弱い先輩が、この時ばかりはなんか思い詰めた感じでなかなか引き下がらない。

「どわっ!!」
「キャッ!!」

そんな事してたら濡れた靴が滑ってつんのめり、俺が前に倒れこむ。
先輩は咄嗟に俺を支えようとしたが、180cm近い男子を華奢な文学少女が支えられるわけもなく、先輩は俺に押し倒される形で倒れてしまった。

「あっ・・・すみません・・・」
「・・・」

その瞬間俺と先輩の顔が2cmくらいの近さにあった。
その時ドキッとした。
メガネをかけてる時の先輩は一重まぶたに見えていたのだが、先輩は実は二重だった・・・。
メガネのレンズの加減でそう見えるようだ。
実際メガネをかけてる人の中にはメガネをとると二重という人は結構多い。
メガネで一重の先輩はどうしようもなく地味だが、この時の先輩は正直美少女と言っても差し支えない可愛さだった。

俺は急にドキドキしてきて、退こうと思ってた体が急に強張って動けなくなった。

「ウラキ・・・くん・・・?」

なんでそうしようと思ったのか俺もよくわからない。
カーっとなったという表現が一番適切かもしれない。

「え・・・やっ・・・」

俺は先輩の唇に強引にキスしていた。

「ん・・・」

キスだけじゃない。
俺はそのまま無我夢中で先輩の胸とかを触りまくってた。

「やっ・・・ウラキくん・・・だめ・・・やめて・・・」

先輩の抵抗は相変わらず弱かった蚊のなくような声で悲痛に訴えるが、この時の俺の耳には何も聞こえてこなかった。
ただひたすら手のひらから伝わってくる先輩の柔らかさと温かさで頭の中が一杯だった。

「やめて・・・ウラキくん・・・ヒドいよ・・・」

先輩が泣きながら俺を見上げる。

「俺寒いんです・・・先輩の体温かいですね・・・」

俺がそう言うと先輩はどこか諦めたようにふっと力を抜いて抵抗しなくなった。
俺が胸とかお腹とかを触る間、先輩は目を瞑っていた。
俺は先輩の手を取って自分のパンツの中に導いた。
とにかくたまらなくて先輩の手で触れて欲しかった。
先輩の手は力なく抵抗もない。
俺が無理やり押し当ててるような感じだったが、先輩の手が触れた瞬間に大量に先輩の手に射精していた。

「なんで・・・こんな事するの?」

射精して服を正す俺に先輩が廊下に寝たまま、うわ言のように言った。

俺は先輩の方を見ることができなかった。
冷静になった頭ではただ一つ、なんて事したんだという後悔しかなかった。

(自分がこんな犯罪まがいのことをするとは・・・)

正直先輩のことより自分のそういう部分になによりショックを受けていた。

「すみません!!」

俺はそう言うと先輩の家を飛び出して、家まで水たまりも何もかも気にせず必死で走って帰った。

先輩をレイプ紛いに押し倒した次の日。
俺は怖くて学校を休んだ。

もし先輩が先生や親に言いつけていたら俺は逮捕されるんじゃないか・・・。
そんな事に成らなくても言いふらされたら・・・。
もう俺はあの学校に通えない・・・。

俺は先輩のことなど心配する余裕もなく、ただずっと電話や来客に怯えて一日を過ごした。

しかし1日経っても2日経ってもどこからも俺を咎めるような連絡や来訪はなかった。
ただ一回、担任の谷田の「イイ体してて風邪なんか引くな、馬鹿もん」という電話だけだった。

なんだろう、これが俺の小物というか下衆なところだが、3日目には俺は一転して気持ちが楽になっていた。

(先輩は誰にも言ってない!よかった・・・ラッキー)とすら思った。

という訳で3日目に登校することにした。

(一応謝っておこう・・・)

そう思い、放課後に図書室へ行くと先輩はやっぱりそこに居た。

ガラッと扉を開けて中に入ると先輩がびくっとして俺を見たのが分かった。
まるで大きな犬を見た時のような反応だった。
ショックだった・・・。
当たり前だけど、嫌われたと思った。

「あの・・・先輩・・・この間のこと、すみませんでした・・・」

「・・・」

俺の言葉に先輩は何も言わず、下を見てるだけで体を強張らせていた。

「本当すみませんでした!なんかあんな事になって舞い上がってわけわからなくなったんです・・・本当気が済むまで殴ってくれていいんで!だから勝手だけど誰にも言わないで!」

まあ我ながらなんと手前勝手で情けない事だろうか。
まさしく屑である。

「なんで・・・あんな事を?」

「・・・」

それまで黙ってた先輩がキッと、今まで見せた事もないような目で俺を見上げた。

「・・・」

正直何と言うべきか解らなかった。

性欲に負けたから?
しばらくオナニーしてなかったから?
ダメだ最悪だ・・・こんなんじゃ許してもらえない・・・。

馬鹿な頭をフル回転させて、俺は彼女が少しでも俺を許そうという気になるセリフを考えた。

「す・・・好きだったからです!」

まあ、馬鹿で屑の思いつくセリフなんてこんなものだろう。
むしろクズの割には健闘したと言うべきか。

「えっ・・・」

「先輩のこと、ずっと好きだったんです・・・物静かで大人しい感じでそれにメガネないと凄く可愛いです!」

思いつく限りとにかく押し切る様に色々と並べ立てた。
慣れない事を言われたのか、ちょっと赤くなる先輩だったが・・・。

「・・・だからってあんなこと・・・」

すぐにあの日のことを思い出しそうになったのか、涙声になる先輩。

「俺がやった事は最低です!もう二度としません!」

平身低頭頭を下げまくる俺。
それが功を奏したのか、なんとか先輩からお許しの言葉をもらった。

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