保険室の先生が残してくれた答え

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高校の保険室の先生がすごい優しかったな。
年も20代の真ん中くらいで、弟のように可愛がってくれたっけ。

「彼女とうまくキスができない」って相談したら、「放課後、またここに来なさい」って、キスの先の実践まで練習させてくれて。

終わったあとに「実は処女なの」って聞かされた瞬間は、ちょっとの罪悪感と先生に対する淡い気持ちがあって、彼女に対して少し後ろめたかった。
そして、その彼女より先に先生とやっちゃったことに対して罪悪感を感じていると相談したら、「君は悪くないよ」って、また慰めてくれた。
いけないんだけど気持ちよかったから、次も、その次もとずるずると、何度も付き合ってくれて。

終わった直後、そのたびに罪悪感を感じるんだけど「保険の授業だからねっ」て笑いながら許してくれてさ。

しばらくそういう関係が続き、ある日突然、先生が学校に来なくなった。

そして1週間くらいしたのかな。
全校集会で、代わりの先生がやってきたんだ。

妙だなと思い、校長の言葉に耳を傾けていたら、嫌な予感が当たった。

背筋が凍った。
自分の耳を疑った。

けど校長はゆっくりと、そしてはっきりとした言葉で「先生が事故で亡くなった」と生徒たちに告げた。

頭が真っ白になった。
スピーカーから聞こえる言葉が何を言っているのか理解できず、それと同時にとてつもない吐き気と頭痛が一気に来た。
黙祷が終わり、体育館全体で一通り悲しむ雰囲気を演じた後、事務的に新任の先生の紹介が行なわれている中、俺の感情と周りの温度差から感じるそのあまりにもあっさりとした空気に耐えることができず、走って体育館から抜け出した。

保健室のドアを開けても誰も居なかった。
俺はゆっくりと部屋の中を見回し、そして先生がいた、先生と一緒にいた保健室のベッドで一人、大声を上げて泣き叫んだ。
生まれて初めてだった。
あれほど心から泣いたのは。
自分じゃどうにも出来なかった事とはいえ、とても悔しくて。
どこにぶつけたらいいのかわからない、いつもだったら、こんなときは先生が慰めてくれるのに。
保健室には誰もいなくて。
聞こえるのは俺の涙の混じった叫び声だけで。

気がついたら集会は終わっていて、何人かの生徒と新任の先生がやって来てた。
ベッドでうずくまっている俺に対して「どうしたの?」って心配をかけてくれたんだけど、どうしてか俺はその人がすごく憎く思え、物凄い形相でその人を睨みつけ、走って保健室を出ていった。
そして、卒業するまで、二度と保健室に行くことはなくなった。

今は紆余曲折あって医者をやっている。
俺も「先生」って呼ばれる立場になった。
あれからずっと悩んでいる。
10年以上立ってもわからないことがあった。
けど先生と同じ立場に立てば俺にもわかる気がして。

先日たまたま健康診断でその高校へ行くことになり、保健室にも10年ぶり以上に入ることになった。
とてもつらい思い出があったので、そのときは保健室へ入ることも嫌だったが、どうしても必要な書類が見つからず自分で探すことになり、古い書類と新しい書類がごっちゃ混ぜになっている引き出しを一段一段探していった。

そして、一番下の引き出しの奥の方に、何かが引っかかっているのが見えた。

小さい、ハガキくらいのサイズだ。
手を伸ばして拾ってみた。
あの時の俺が写っていた。
カメラに気づいていないのか、ベッドに寝っころがりながら、間抜けな姿で漫画を読んでいる俺の写真だった。

声が出ない。
手の震えが止まらない。

そう、そうだったんだ。
先生は優しかったんだ。
昔からずっと。
俺のことを見ていてくれたんだ。

そして俺が10年以上悩んだこと、それに答えが出た。

俺は先生のことが好きだったんだ。

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