「出して！中に頂戴」って叫んでた彼女・後編

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彼女の兄貴に電話してみた。

「夜分遅くすみません」

そう言うと、奥さんは何かを察したらしく、兄貴にすぐ変わってくれた。
兄貴はいい人で、俺を認めてくれて、「妹を頼む」と頭を下げてた人。
奥さんとも仲良くて、子供の面倒を俺が見るので、子供は「お兄ちゃん大好き！」と慕ってくれてたし、いい関係だった。
酒も過去三回一緒に飲みに行って、「俺の会社に来ないか？」と言ってくれた。
設計事務所を経営してるんですが、俺が妹の彼氏とかは別にしても、「お前を買ってる」と言ってくれたのが嬉しくて、俺の兄貴的存在だった。

兄貴「おぃ！どした？」

俺「あっ、お兄さん、俺もうダメみたいです」

兄貴「どした、どこに居るんだ？」

俺「あの、あいつの事なんですけど・・・」

兄貴「なんかやらかしたのか？」

俺「えぇ・・・部屋行ったら違う男がいて・・・そ、そそれで」

もうそれ以上言えなかった。
涙がこぼれてしまった。

兄貴「ん？なんだそれ！あのやろう！」

大きく息を吸い、気を取り直す。

俺「違う男とやってたんです、それもお兄さんには言い難い事なんですが・・・」

兄貴「おぅ！なんでも言え！全部吐いちまえよ」

俺「その男と・・・その男に・・・その・・・出されてて・・・」

兄貴「ん？子供出来るようなことしてたんだな？最後まで」

俺「はい・・・辛いっす、兄さん」

兄貴「まじかよ！おぃ！おぃ！」

後ろで奥さんになにやら話してる。

兄貴「今から行くから！俺酒飲んじまって、かみさんに運転させっからよ！」

俺「あぁ・・・お兄さん、いいですよ。気分が落ち着いてきましたから」

兄貴「いいや、よくねぇよ、いいか、じっとしてろよ！」

俺「お兄さん、今日は無理ですよ。もういいんです・・・」

兄貴「そこ、あいつの家の近くなんだろ？近くに着いたら電話するから出ろよ！」

俺「お兄さん、すみません・・・」

兄貴「子供はばあちゃんがいるから心配するな！今行く！」

がっくり肩を落として、もうどうでも良かった。
抜け殻というか、思い出さえ消えようとしていた。

修君の携帯から“自宅”と書かれた着歴を見る。
押すか押すまいか悩んだ。
やってたのは事実だが、（俺がこの家族を壊す事は許されるのか？）と自問自答した。
でも許容量オーバーの俺の頭はすぐさまＯＫサインを発したんだ。

プルルル、プルルル。
自宅の電話が鳴る。

修妻「パパ？今日は遅くなるの？」

ナンバーディスプレイなのかすぐに受け答えしていた。
しばらく声にならなかった・・・。

修妻「もしもし？もしもし？」

相手が不審がる前に話し始めないと・・・。

俺「あの・・・◯◯さんのお宅ですか？」

修妻「はい？パパ？」

俺「修さんはいらっしゃいますか？」

修妻「誰ですか？今日は出張に出ておりますが・・・」

俺「あぁ、そうですか」

修妻「なんの御用ですか？これは主人の携帯ですけど！」

モロに疑う声。

俺「あのですね、修さんのお付き合いしてる女性の彼氏の◯◯と申します」

開き直ってた。
もう後戻りできないと確信した。

修妻「えっ？なんなんですか？」

相手の女性は怒り気味だ。
無理もない。

俺「ですから、修さんは僕の彼女と浮気してるんです！」

修妻「はい？あの、なんなんですか？」

俺「今日出張というお話ですが、僕の彼女の家に居ます」

しばらく無言が続く、相手の女性も何も言えなくなってる。

俺「その家で、僕が帰ると、申し上げ難い事ですが、セックスしてたんです！」

修妻「そ、そんな・・・」

俺「僕はその場面に出くわして、慌てて家を飛び出してきた彼氏の◯◯です」

修妻「いきなり言われましても・・・」

俺「なら、修さんの携帯に電話してみて下さい、僕が出ますから」

修妻「いえ、そんな事しなくてもディスプレイに主人の番号が出てますから！」

動揺と怒りが両方入り混じる声。

俺「今、◯◯県の◯◯市に居ます、修さんはこの裏の彼女のアパートに居ます」

修妻「なにを仰ってるんですか？」

俺「僕は動揺して、その場から立ち去る時に修さんと彼女の携帯を間違って持ってきてしまったんです。それでこうして奥様に電話してるんです」

修妻「つまり◯◯さんが仰ってる意味は、うちの主人が◯◯さんの彼女と浮気していたということを仰ってる訳ですか？」

俺「そういう事です」

修妻「証拠はあるんですか？」

俺「今から来て頂ければお見せ出来ますし、僕が奥様の所へお伺いしても構いません」

修妻「・・・」

俺「怖いと思われるようでしたら、どなたかご同伴の方がいらしても構いません。名刺もお渡ししますし、免許証もお見せします」

修妻「わ、わかりました・・・弟と一緒にそちらに向かいますので住所をお願いします」

敵意のこもった口調と、嘘だったらぶっ殺すぞこらぁ！という勢いの攻勢。
住所を告げると意外と近かった、車で２０分も掛からない所だった。
スタバの屋外喫煙席を離れてアパートの前に居ると、まだ自転車が動いた形跡は無い。
お兄さんがたまたまアパートに前を通りかかり声を掛けてきた。
お兄さんにも事情を説明すると笑いながら・・・。

兄貴「お前ｗｗｗ突破力あんなぁｗｗｗ」

ほどなくして奥様と奥様の弟さんが到着。
深々と俺は挨拶をすると向こうは、「事実かどうか判りませんが、もし事実だったとしたら責任を取りたい」と一旦謝罪はお預けとなった。
お兄さんは「コーヒーでも買ってくるから待ってろよ」と言い、近くのコンビニに向かう。
その間、俺と奥様は自転車の前まで行く。
その間、奥様と携帯メールの送受信履歴をお互いで確認。
かなりのエロメール。

『中で出したい！』とか『中にいっぱい出してあげる』とか『ケーキ何がいい？身体に塗って舐めてあげる』とか『彼氏今日来るの？来ないなら行くよ！』とか『今日は出張だからぼくちんはお泊まり出来ます！』とか『この間のお風呂でのエッチは最高だね、もっと喘いでエロい女になろうね！』・・・orz

彼女側のは『私の奥でイッてね（ハート）』とか『いっぱいしゃぶっちゃう』とか『今日、彼来ないからいいよ！』とか『身体が熱いの』だとか、キツいのは『中で出されてる時のおちんちん最高だったよ、いっぱいびくびくしてね（ハート五個）』

これはきつかった・・・。
見なきゃ良かったとさえ思いましたよ。

奥様の横顔見たときに初めて、『恐怖』という言葉の意味が判ったような気がする。
奥様の弟さん、お兄さんの奥さんはそれぞれ車の中で待機、というか寝てる。

耳を当ててみる。
声はしないが、なにやらごそごそと音がする。

修妻「開けていただけますか？」

奥様の顔は般若のようだった。

俺「あの、奥さん。もし修さんが居なくて私が間違っていたとしたら、本当に申し訳ないと思います。土下座でもなんでも慰謝料でもお支払いします」

修妻「いいんです、もし本当なら私にも考えがあります。逆に本当じゃない方がお互い良いのかも知れませんね。男と女の揉め事はお金じゃ解決出来ないですから」

そこへ兄貴・・・。

兄貴「うへｗｗお前、すごいロックの仕方だな、あいつ出られないよこれｗｗｗ」

奥様にキリっと睨みつけられ、怯む兄貴。

兄貴「俺、邪魔だからコーヒー飲んでるわ」

そう言うと兄貴は退散した。

俺「いいですか？外しますよ」

修妻「はい」

ドアが開く。
居間の明かりがぼんやりと灯ってる。
話し声がする。
冷たい風が流れ込む。
その風に気が付いたのか、会話が止む。
土足の奥様の後に続く俺。
居間の扉のノブに手が掛かる。
一気に引く奥様。

は・だ・か・で・シ・ヤ・ツ・に・く・る・ま・る・馬・鹿・ふ・た・り。

修妻「あなた・・・」

俺「まだやってんのかよ！」

修「お前、なんでここに・・・」

彼女「・・・」

兄貴「おーい、入るぞぉー」

ドタドタ。

兄貴「んっっ！てめー！ちょっとこい！」

彼女の髪の毛を掴むとズルズルとベッドからずり下ろす。
シーツが捲れてパンツとブラだけの彼女、トランクスの修君が見える。
キッチンの方へ引きずっていかれる彼女。
そんで張り手、３発。
ベシ、ベシ、ベシ！
唇からポタポタと・・・。

兄貴「あんだけ俺に好きだとか言っときながら、こりゃなんだ？え？」

彼女「・・・」

兄貴「何とか言え！なんなんだこれは！」

彼女「・・・」

兄貴「◯◯と一緒で幸せじゃなかったのか？くそ女！おぃ！」

彼女「・・・」

兄貴「てめーは誰とでもいいのか？ゆるゆるなのか？」

彼女「・・・」

思わずお兄さんの『ゆるゆる』に吹きそうになった。
一方修君はそそくさと着替え始めてました。

修「誤解だよ、これは完全な誤解！」

修妻「いいから、もういいの！」

俺「修さんさぁ、中出ししといてそりゃないよね？」

修妻「！！！あ、あなた！」

修「してない！してないよ彼女とは何もしてない！」

俺「いい加減にしろよクソ野郎！」

次の瞬間、気がついたらお兄さんに羽交い絞めにされてた。
どうやら１０発近く殴って、そのうち何発かは不発で床叩いて両手から血が出てて、お兄さんの「おぃ！しっかりしろ！」という言葉で我に返ったんです。
落ち着いて考えると典型的な修羅場シーンなベタな感じに自分がおかしくて笑ってしまった。
彼女の顔は腫れてるし、修君も腫れてるし、奥様はしゃがんで泣いてるし、兄貴は俺の隣で「落ち着け落ち着け」と呪文唱えてる。

押し問答はこれで終わり。
俺はお兄さんの車に乗り、お兄さんの家に泊めてもらうことに。
どうやら自殺しそうな顔だったらしい。
奥様は弟さんと帰宅。
お互いの携帯番号教えて、「後日会いましょう」という事で修君の携帯を渡して俺に謝罪して帰っていった。

当人二人は、アパートに置いてきぼり。
正直どうでもいい。
シネとか本気で思ってた。
俺は携帯を彼女に投げつけて出て行った。

３日後に飛ぶんですが。
お兄さん家に二泊三日した後、自分の家に戻ると奥様から電話で、「お会いしてお話したい」との連絡を受けた。
ファミリーレストランでご馳走になりながらのお話。
彼女とは結婚してから出会い系で知り合い、家が近かった事もあって会うようになり、奥さんには内緒で出張と言っては彼女の家に泊まり込んでた。
一年くらいの付き合いで、彼女に彼氏（俺）が出来たことで出張回数が極端に少なくなったとのこと。
彼女がピルを飲んでたのはその理由かと聞いたら、やはり修君のゴム嫌いが発覚した。
隠れて会うスリルにお互い高まりあって身体の関係へ。

奥さんは色々話してくれたが、俺にはあんまり堪えなかった。
『もう終わり』と心は割り切っていたからかもしれない。

奥様は修君に次の日、離婚届を突きつけ追い出したと言っていた。
追い出されて行くところは彼女の家しかないだろう。
奥さんは、「ごめんね」としきりに謝っていたが、この家庭を壊したのも俺であり彼女であるわけだから、お互いテーブル越しに頭を下げた。

お兄さんから電話があって、彼女が会いたいという電話が来たと伝えてくれた。
俺は「もういいです」と言うと、お兄さんは「妹とは終わっても、俺とお前は飲める仲だよな？」と言う。

俺「えぇ、そうです」

兄貴「なら、俺と一緒に働けよ、答えは後でいいから」

俺「えぇ、後で連絡します」

そう言って、彼女の経緯を少し話して電話を切る。

彼女は俺が相手にしないというわけではなく、俺と付き合い始めて修君をやめようと思っていたが、どうしても切ることが出来なくてそのままずるずると・・・。
俺とのセックスが不満だったんじゃなく、奥様に相手にされてない修君が可哀想だった。
俺にバレないで終わらせたかった。
中出しは修君が喜ぶからで、ゴムするよ！と言ってくれた俺には感謝してる。
それに俺とのセックスの方が何倍もいい・・・。

もう慰めにもならない言い訳で、それも兄貴に言うとは。
こんな馬鹿女を好きになったのかと思うと自己嫌悪にすらなってゆく。

次の日の朝。
仕事に向かう途中に、『もう一度会って謝りたい！』とメールが来たので、『俺の性欲処理係ならいつでもいいよ』と返信した。
そしたら、『修さんと二人で謝りに行く』と言うので呆れて口がぽかーんと・・・。
『二度と俺の前に姿を見せるな！ヤリマン女！』と返信。

次の日、会社の前に二人が、俺が来るまで待ってやがる。
修君が胸から封筒を取り出すと、「迷惑かけました、謝罪するほかありません」と俺に封筒を押し付けてきた。
案の定、金だった。

その後メールで・・・。

『修さんと私で出し合いました。もう二度と会いません。兄とも縁を切りました』

これで解決？
というか、俺ももう関わりたくないと思っていたし、しばらく塞ぎ込んでいたので溜まってた仕事をがむしゃらにやって、そんな馬鹿みたいな事件は忘れてしまおうと考えたんだ。
だけど、一月の下旬最終週に再び・・・おかしな着信があった。
見覚えの無い番号。
それも一日に何回も掛かってくる。
留守電になると切れる。
昼休みに思い切って１８４つけて電話してみた。
すると・・・。

「あ！◯◯君？私！」

彼女だった。

彼女「あのさ、修さんとは別れたし、もう一度やり直さない？」

俺「はぁ？俺もう彼女居るし・・・」

嘘だが嫌悪感丸出しで応答した。

彼女「彼女出来たんだ！すごいね。でも私のほうが絶対愛してるから」

おかしな事を電話口で言い始めた。

俺「なに言ってんだお前？そもそも誰？」

彼女「なに惚けてるの？やり直して温かい家庭作ろうよ！」

頭がおかしくなってるっぽい・・・。

彼女「今、◯◯君の会社の前にいるんだ！一緒に帰ろう！」

俺「・・・」

無言で切って、すぐお兄さんに電話した。
するとお兄さんが来てくれて、会社の近くでウロチョロしてた彼女を捕獲。
そのまま連れ去り、また説教。

次の日もまた次の日も会社の前に居て、俺は会社の裏門からこっそり出ていった。
すると今度は俺の家の前に居る。

「家に入れて」「止めろ」「入れて」「入れない！」で押し問答。

捨て台詞のように、「私の身体が目当てかよ！」と言いながら逃げるように出て行った。

二月からお兄さん家から会社へ通ってる。
彼女はまさか俺がお兄さんの家に居るとは思わないだろうけど、捨てアドみたいなメールで、『あなたのちんちん入れて、こんなになってるの！』とか、『やり直せるはず！だって私が愛してるから！』とか、『修さんと渡したお金半分返して』とかめっちゃくちゃメールが来る。

お兄さんは、「妹とはもうこりごり」と言う。

「過去にもあったんですか？」と聞くと、「そりゃもう・・・」と口を噤んでしまった。

修君の奥様からは電話で、「離婚しました」と来た。
無一文で追い出されたらしい。

今日は仕事休みでネカフェでくつろぎタイム。
まだまだこれからが修羅場だと思うけど、今は寝かせてくれと思う。

おわり。