俺、本当にM先生と出会えて幸せでした その1

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10数年前の高校時代の話。
長い割りに内容は大したことないかも。

当時、俺は特に暗いわけでもなく、かといってクラスの中心的存在でも無い、ごくフツーの高校3年生。
年相応に色気づいて身だしなみなんかには気を使い始めていたものの、実際に女と話をするのは苦手(赤面症)という奥手な高校生だった。
異性を巡る華やかな出来事には縁がなく、不満はないけど満足感には欠ける。
少なくとも青春真っ盛りという生活とはかけ離れた毎日を過ごしていた。

一方、勉強面はと言えば、私立で一応進学に力を入れていた学校だったから、そっちの方面はそれなりに忙しかった。
特に3年になると正規の授業の他に『補講』と呼ばれる週2回放課後に実施される受験対策の補習が始まって、補習当日は特別な用事のある生徒以外は各自が事前に選択した科目を受講することが半ば義務付けられていたりもした。

その補講で俺は英語と古典を選択していた。
大抵は主要教科である英語や数学、あるいは社会や理科の選択科目を組み合わせて受講する生徒が多く、古典を選択するっていうのは少数派だった。
だけど、俺は元々古典が苦手だったことと、古典の担当教諭が実は俺が密かに憧れていたクラスの副担任の先生だったこともあって、俺はほとんど迷うことなく古典を受講科目に選んでいた。
つまり俺としては補講を通じて副担任の先生と多少なりとも親しく話せる機会があればいいなーという、やや不純な動機もあったってわけなんだ。

その先生の名前をここでは一応“M先生”としておく。
M先生は当時おそらく25~26歳で、細身で一見すると大人しそうなお姉さん系の先生だったんだけど、実際は見た目よりもずっとハッキリとした性格で、授業中の男子生徒のH系のツッコミなんかにも動じることがなく、良く通る声と体に似合わない筆圧の強い大きな文字で板書するのが印象的な先生だった。

校内では数少ない若くて見た目の良い先生だったから、男子生徒から人気があってもおかしくなかったんだけど、当時の俺達からすると気軽に友達感覚で話しかけられるっていうタイプの先生ではなかった。
そのせいか、俺みたいに密かに憧れてるって奴は居たかもしれないけど、表向きはそれほど目立って人気があるって感じではなかった。

補講は放課後16:30くらいから行なわれていたと記憶している。
古典を選択する生徒は予想通りそれほど多くなくて、出席するのはたいてい7、8名。
俺としては少人数の授業で必然的にM先生と話をする機会は増えるし、休憩時間の他愛のない雑談なんかを通じて、今まで知らなかったM先生の性格や嗜好を知ることが出来たり、あるいは授業中とは少し違う素に近いM先生の表情や仕草なんかを発見することが出来たりして、それだけで結構な満足感を覚えていた。

当時の恋愛経験の乏しい俺からすると、憧れのM先生と仲良くなると言えばせいぜいこれくらいが限界で、更にそこから進んでM先生とリアルな恋愛関係になるなんていうのは想像すら出来ないというのが実際のところだった。

でも、そんなありふれた日常を過ごしていた俺の心境に変化をも垂らす出来事は、ある日唐突に起こったんだ。

夏休みが終わって間もない9月の中頃、その日たまたま進路のことで担任に呼び出されていた俺は、放課後の誰もいなくなった教室で一人帰り支度をしていた。
西日の差し込む蒸し暑い教室で、俺が帰ろうとしたその矢先、突然M先生が教室に入ってきた。

「あれ、A君(俺)まだ帰ってなかったの?」
「はぁ、これから帰るとこ・・・ちょっと◯◯(担任)に呼ばれてて・・・」

「そうなんだ。で、勉強の方は順調に進んでるの?」
「んー、いまいちかなー。今も絞られたしwそれより先生はどうしたの?」

「私は放課後の見回り。いつも3年生の教室は私が見回ってるのよ。誰か悪さしてるのはいないかって。だからあなたも早く帰りなさいw」

日頃、補講で顔をあわせていることもあってか、M先生は結構気安い調子で話を続けてきた。

「ところで志望校は決まったの?」
「うーん、まだハッキリとは・・・。やっぱり成績次第だし」

「そうかー。でも大学って入ることよりも、入った後のほうがずっと大事だからね。今よりも世界が広がるし、楽しいことも多いよ。だから今は大変でも頑張って勉強しないとね」
「それは分かってるんだけどさ・・・。ねぇ先生は大学って楽しかった?」

俺は教室でM先生と二人きりというシチュエーションにかなり胸をドキドキさせつつも、それを気取られないよう、なんとか短い言葉で会話を繋げた。

「私は楽しかったよ。勉強もしたけど、色々なところに遊びに行ったし、色々な人とも知り合えたし。だからA君もこれからきっとそういう良い経験が沢山出来ると思うよ」

俺が緊張でドモリそうになるくらいドキドキしてるっていうのに、M先生は当たり前とは言えいつもと口調が全く変わらない。
それにいつもそうなんだけどM先生は人と話をする時に、ほとんど視線を逸らさずに真正面から見つめてくる人なので、俺は射すくめられるような気がして余計気が動転してしまう。

「色々な人かー・・・。先生は大学の時に彼氏とかいたの?」

図らずもM先生と二人きりの状況になり、それ故の緊張感からか俺は舞い上っていて、つい普段から気になっていたM先生の男関係の質問を率直に尋ねてしまった。
今思えば何でいきなりそんなことをって思うけど、多分あの時は精神的にいっぱいいっぱいだったんだと思う。

「うーん、それは言えないなーwそういう話をすると◯◯先生に怒られちゃいそうだしwでも、別に居たとしてもおかしくはないでしょ。悪いことじゃないんだしw」

多少驚いた表情を浮かべたものの、案の定さらっと受け流すM先生。

「でもそう言うってことはいたんだw」

・・・と、笑いながらも少しショックな俺。

「んー、だから内緒だってwでもA君だってこれからきっとそういう人が現れると思うよ。それとももうそういう人いるんだっけ?ww」
「いやいや俺はそういうの全くだめだからw俺、全然モテないしww」

別にことさら卑屈な言い方をするつもりはなかったんだけど、それまで異性に告白をしたりされたりということはおろか、そもそもさしたる恋愛経験すら無いことに日頃から引け目を感じていた俺は、ついそんなコンプレックス丸出しのセリフを口にしてしまう。

「もー、そういうことは自分で言っちゃだめでしょーw大丈夫だって、もっと自信を持たないと」

M先生が、しょうがないわねー、みたいな口調で俺を窘める。

「いや、自信たって俺本当にそういうのダメだしwそれに今までだってそういうの全然ないしさ」
「でも、だからってそういう風に言ってても始まらないでしょ。情けないよ。全くw」

「いや、でも・・・」
「あのねっ」

情けないセリフ続きになってしまった俺の言葉をM先生が強引に遮る。
さっきよりも少しだけ言葉の勢いが尖っていた。

「あのね、そういう情けないことは自分で言っちゃだめなの。物事って考え方ひとつで全然変わってくるもんだし、そんなこと言ってても良いことなんて何もないでしょ。分かってる!?」
「・・・」

「それにね、あなた自分ではそんな風に言ってるけど、私はA君はそんなに悪くないと思うよ。確かに△△君(同じクラスのバスケ部キャプテン。こいつはモテモテ)みたいな感じとは違うけど、真面目だしちゃんと相手のことを考えてあげられる人だし・・・。いつだったか補講で古典の全集を沢山使った時も、その日私が体調が良くないって言ってたら、授業が終わった後に何も言わずに図書室に戻しておいてくれたことがあったでしょ。ああいう心遣いってちょっとしたことでもやっぱり女の人は嬉しいもんなんだよ」
「・・・でもそういうのは当たり前のことだし」

「だからそうじゃなくて、そういうことが自然に出来るってことが大事だって言ってるの。女の人も大人になると見た目のことだけじゃなくて、男の人の全部を見て判断するようになるんだから。私はA君は大人になったらモテるタイプだと思うよ」

今思えば、これは今ひとつ褒められていないような気もするんだけど、M先生は叱るとも諭すとも言えない口調で俺のことを励ましてくれた。
言葉の端々からM先生が真剣に言ってくれているっていうのが伝わってきたし、俺からするとそれを言ってくれたのがM先生だっていうことが何よりも嬉しかった。

この時期の俺にとって、異性に興味を持ちつつも実際には縁の無い生活をしているというのは、単純にコンプレックスというだけでなく、『将来自分も人並みに彼女が出来たりすることはあるんだろうか?』みたいな漠然とした不安の種でもあった。
だけど、M先生にそう言ってもらえたことで、自信という程ではないにせよ、すごく気は楽になったし、古典の全集の件も喜んでくれていたんだと思うと嬉しくて、俺はなにか居ても立ってもいられないような心持ちになった。

「わかった。じゃあもし誰も相手してくれなかったら先生に相手してもらおうかな」

俺は何を言えばよいかわからなくなってしまい、精一杯のベタな憎まれ口を叩いた後、「じゃ、帰る」と言って教室を出た。

「ちゃんと勉強しなさいよ。今はそっちの方が大事だよ!」

後ろからM先生の声が降ってくる。
その声を背中で聞きながらも、俺の頭の中ではM先生の「A君はそんなに悪くないと思うよ」という言葉がぐるぐると駆け巡っていた。
体の中でアドレナリンが噴き出すってこういうことを言うのかってくらい体が熱くなるのを覚え、今にも走り出したくなるような衝動を抑えながら俺は家路を急いだ。

冷静になって考えてみればM先生の言葉は情けない生徒を励ますための社交辞令だったのかもしれないし、会話そのものも取るに足らないものだったかもしれない。
でもそんな言葉であっても当時の俺にとって舞い上るには充分過ぎるインパクトだったし、何よりもこのことをきっかけに俺にとってのM先生は、単なる“憧れの先生”から“本当に好きな一人の女性”へと一気に変化していった。

恋愛経験の少ない俺にとってM先生の言葉はあまりにも刺激が強すぎて、俺はあっという間に恋に落ちてしまったんだ。

M先生との放課後の一件があって以来、俺はほんの少しだけど変わったと思う。
勉強はM先生のことを考えてしまい逆に手に付かなくなってしまったりもしたけど、それでも俺なりに真面目に取り組んでいたし、日常生活でもちょっとだけだけど自信のようなものが芽生えた様な気もしていた。

一方、補講に関しては、クラス担任から古典以外の他の科目を選択するよう命じられて、M先生の講義を受けることが出来なくなってしまうという事態に陥った。
といってもこの補講は通常の授業とは違い、受験対策の演習や解説を繰り返し行なうのが特徴だったから、受講してる生徒も一通りの内容を終えると別の科目に選択替えすることも珍しくなく、むしろ俺みたいにずっと同じ科目を選択したままの方が少数派で、仕方がないといえば仕方がなかったんだけど・・・。

当初、俺はM先生の補講が受けられなくなるのが嫌で、「俺、古典苦手なんで」とか「家では古典の勉強しないから補講で補ってるんです」とか言って誤魔化していたんだけど、ついに担任からM先生に直接俺の科目移動が命じられ、俺はM先生から引導を渡されることになってしまった。

「A君ちょっといい?今日ね◯◯先生から呼ばれたんだけど」

ある日の補講の開始前、俺はそう言ってM先生に話しかけられた。

「あ、科目移せって言ってたんでしょ?」
「そう。社会の選択か英語の長文読解を受けさせたいって言ってたよ」

「なんだかなー。そういうのは自分で決めるっつーの。何だよ全く・・・」
「でもね、私もそうしたほうがいいと思うよ。だってA君だいぶ古典の成績も上がってきたみたいだし、これからの講義は今までやってきたことを繰り返す部分が多いから、時間が勿体ないっていうのは確かにあるからね・・・」

M先生の口調はごく普通の事務的な感じで、俺はちょっと寂しさを感じた。
ただ俺としてもこれ以上古典の受講に固執して周りから変に思われるのも嫌だったし、何よりもここで断れば今度はM先生に迷惑がかかりそうな気がして、やむなく俺は指示に従うことにした。

「わかった。でも俺もっとM先生の補講受けたかったんだけどなー」

放課後の教室の一件以来、俺は照れ臭さもあって、M先生と親しく話す機会はほとんど無かったんだけど、この時はたまたま周りに人がいなかったことと、どうもM先生の素っ気ない口ぶりが気になって、俺はわざと拗ねるような言い方をしてみた。

「何を甘えたこと言ってんのwwあなた受験生なんだから仕方ないでしょ。それに古典で分からないところがあればいつでも教えてあげるんだから、他の科目も頑張りなさいよ」

ここで冷たい対応されたら嫌だなと思ったけど、M先生は俺の言い方を嫌がる風でもなく、笑いながらいつもの調子で受け止めてくれて、俺は少しホッとした。

「そんなこと言われたら、俺、毎日質問しに行っちゃうかもw」
「いいよー別に。でもその分成績は上げないとダメだからね。それと質問は国語のことだけね。前みたいに彼がどうとか言うのは禁止だからねw」

「でもそういうことのほうが聞きたいんだけどなw」
「何言ってんのw」

久しぶりのM先生との会話に嬉しくなって軽口を叩く俺に対して、M先生は笑いながら少し怒ったような表情をすると、軽く俺の頭を小突くような真似をした。
科目を移動することになったのは残念だったけど、俺はM先生と僅かとは言えあの放課後以来の親しげなやりとりが出来たことと、あの時の会話をM先生が覚えていてくれていたことが嬉しくて、ちょっと大袈裟にM先生から逃げるふりをしておどけた。

やっぱり俺はM先生が好きだぁ・・・。

俺はこの時とばかりにM先生のことを見つめながら、そんなことを改めて考えていた。

その頃から受験の時期まではあっという間だったような気がする。
M先生はクラスの副担任だから毎日顔は合わせるものの、その後は特に親しく話をする機会には恵まれず、俺としても心なしかM先生が俺のことを気にかけてくれているんじゃないかという気配を感じたりはしたものの、それは単に俺の方が気にしているからそう感じるだけという気もしたし、結局のところそれを確かめる術も機会も無いまま、いよいよ季節は受験シーズン本番へと突入していった。

その頃の俺はといえば、相変わらずM先生のことを考え悶々としてはいたものの、さすがに今は勉強を優先しないとまずいと思う一方で、受験さえ終わればその時は玉砕覚悟でM先生に自分の気持ちを伝えたいとも思うようになっていた。
当時の俺にとって、M先生は初めて本気で好きになった女性と言っても過言ではなく、その人に自分の気持ちを伝えることなく卒業してしまえば、後で絶対に後悔するという気がしていたし、むしろそういう取り返しのつかないことだけは避けなければという気持ちが何より強かったように思う。
何をするにしても積極性とは縁のない俺ではあったけど、このことだけは間違っちゃいけない、間違ったら絶対に後悔する、経験値の低さゆえか俺はそんなことをやや大袈裟なくらい考え、一人気持ちを昂ぶらせていた。

(本当に気持ちを伝えられるのか・・・)
(いくらなんでも勘違いしすぎ・・・)
(相手にされるわけないし・・・)
(でも、ひょっとしたら・・・)

告白するなどと意気込みつつも、こんな風にM先生に対する様々な気持ちを錯綜させながら受験直前の日々を過ごしていた俺に、小さくも強烈な爆弾を投下したのはやっぱりM先生だった。

入試を一週間後くらいに控えたある日の教室で、

「ちょっと渡したいものがあるから職員室まで来てくれる?」

俺はほんとに何気ない調子でM先生に声を掛けられた。
周りには普通に友達も居たけど、その頃は誰とは無く入試対策用のプリントなんかを取りにくるよう呼び出されたりすることが珍しくなかったので、その時も特に誰も気に留めることは無く、俺も内心はともかく見た目は普段通りの感じでM先生と教室を出た。

職員室に向かう廊下を歩きながら、久しぶりにM先生と話をする。

「いよいよ試験だね。調子はどうなの?」
「まぁ、なるようになるとしか言えないかなぁw」

「ちょっとー、ほんとに大丈夫なの?最後まで気を抜かないで頑張らないとダメなんだよ」
「うん。分かってる」

試験が終わればM先生に俺の気持ちを伝える。
俺は試験以上に、そのことを考えると身が引き締まるような気がして、自然といつもより少し口調が硬くなった。

職員室に着くと、予想通り古典に関するプリントを渡された。

「これ、予想問題集と解説。最終チェック用に試験科目に古典がある人に配っておいてください」

職員室内ということでM先生の口調も改まっている。

俺がプリントを受け取ると、M先生は続けて小さく周りを見渡し、近くに人が居ないことを確認すると「あと、これはあなたに。ほんとはいけないんだけど、あなたなんか頼りないから」と小声で言うと、小さな事務封筒を手渡した。

俺はその封筒を周りの教師に悟られないよう無言で受け取ると、そのまま教室に戻り、預ったプリントをみんなに配った後、即行でトイレの個室に駆け込んだ。

校名の入った事務用の茶封筒が少し膨らんでいる。
俺はゆっくりと封筒を逆さにして中身を取り出した。
中からは「学業成就」と書かれたお守りと、「自信を持って頑張りなさい!!」と書かれた小さな紙片が出てきた。
手紙と言うにはあまりにも小さいその紙片は、薄いグレーのシンプルなデザインで、M先生らしい大きく力強い文字で言葉が記されていた。

「先生・・・」

みぞおちの辺りにキュルキュルっと締め付けられるような感覚があり、俺は思わず脱力して便座に腰を下ろした。

「なんか、もうやばい・・・」

俺は入試が終わった後のことを想像し、「もう絶対告白するしかないなぁ」とか「もう逃げ道は無いぞ」とか、そんなことをぼんやりと考え、感動なのか興奮なのか判らないけれど少し体が震えるような感覚を覚えていた。

振り返ってみると、俺はこの時はじめて生涯初の告白というものを、想像ではない現実のこととして捉えていたんだと思う。
想像の世界から、急に現実に引き戻された様な生々しさ。
入試同様、結果はどうであれ気が付いたらゴールは思っていた以上に近いところまで迫っているということを、俺はいきなり胸元に突きつけられたような気がしていた。

試験は出来たり出来なかったりだったけど、兎にも角にも入試期間は嵐のように過ぎ去った。

結果から言うと、俺は何とか第1志望の学校に合格することが出来た。
ただ、それはそれで良かったんだけど、その学校は俺の地元からは遠く離れていて、俺は卒業と同時に地元を離れ一人暮らしをすることが自動的に決まってしまった。
あと一月もしないうちに地元を離れるという現実に直面し、俺は今さらながら焦燥感を覚えた。

試験が終わった俺にとって、今や最大の関心事はM先生のこと以外にありえない。
残された僅かな時間の中で、どうやってM先生に気持ちを伝えるか。
試験が終わった俺は始終そのことばかりを考えるようになっていた。

しかし、いざ考え始めてみると、確実にM先生と会えて、ゆっくり話せる場所というのは思いのほか少ないことにも気がついた。
それまでは漠然とどこか人気の無い場所で告白すればいいと考えていたんだけど、実際問題としてはどこかにM先生を呼び出すと言ってもどういう方法で呼び出せば良いかが難しいし、そもそもM先生が俺の呼び出しに素直に応じてくれるかも分からない。
それだったらいっそ校内のどこかで俺がM先生を待っている方が確実性は高いように思うけど、人目が無く確実に会える場所となると果たしてどこがあるか・・・。

考えた結果、俺は校内の駐車場でM先生を待つことにした。

田舎にある学校なので、M先生をはじめ多くの教職員は車で通勤していたから、駐車場にいればM先生に会えるのは確実だったし、うちの学校の駐車場は敷地の上が体育館になっていて、階段があったり体育祭で使う雑多な用具等が置かれていたりして死角も多かったから、M先生を待っているのを誰かに見咎められたりする心配が少ないことも好都合だった。
冷静になって考えれば、薄暗い駐車場で女教師を一人待ち伏せしている生徒っていうのもかなり危ない気がして、その点は心配だったけど、その時の俺には駐車場での待ち伏せ計画以上の名案は浮かばず、俺はそれなりに満足をしていた。

あとは日にち。
俺は思いを伝えた後に、学校でM先生と顔をあわせるのはあまりにも恥ずかしいという気がしたので、Xデーは卒業式の翌日と決めた。

「一応、卒業式の後ならもう生徒じゃないのかな?」

そんなことも免罪符のように感じながら、ようやく俺の高校生活最後にして最大のイベントの計画は決定した。

そして卒業式当日。
3年間一緒に過ごした仲間と別れるのは寂しかったし、新しい生活への期待と不安も入り混じり、俺なりに感慨深いものを感じた。
もちろんM先生にも挨拶をした。
この一年間お世話になったことを、簡単ではあったけど、きちんとお礼を言った。
心なしかM先生の目も潤んでいたような気がする。

(でも先生、俺が本当に言いたいことは明日言いますから・・・)

そんな言葉を飲み込んで、俺の高校生活は幕を閉じた。

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